雑記の表紙はグリーン

ジャニオタ備忘録(語るタイプ)

You Shall Go To The Ball, CINDERS!!〈ソーホー・シンダーズ ACT2〉

 ミュージカル『ソーホー・シンダーズ』のシーンごとの感想です。ACT2。

 

※後の展開を知ってるテイで書いてる部分があるので、基本的には見た人向けかも
※シーン名はテキトーにつけてます
※一回だけ○○な回があった、とかは自分が見た公演の範囲の話です
※ACT1につづいて一幕分だけなのに読むのに体力を要する長さです(約4万字)

以上ご了承の上お読みいただけますと幸いです……!パッションだけしかない!(思いついたら随時書き足してるかもしれません)

 

ACT1はこちら。

dressigh.hatenablog.com

 

 

 

SOHO CINDERS【ACT2】

 

【S0 アントラクト】

〈♪M9 Entr'acte〉

  • ACT1の幕切れのところからスタート。〈きみに合うのか〉でロビーのセリフを待たずに、サイドサドルがひとつ手を打ち鳴らすと、暗転。

 

【S1 ベリンガム卿のオフィス(パーティー会場)】

〈♪M10 Who's That Boy?〉

  • にぎわうパーティー会場。ひとり気まずそうにしているロビー。
  • ロビー、ベリンガム、ジェイムズ、サイドサドルを除くキャスト6名が手持ちのベネチアンマスクをつけて歌スタート。以降、マスクをつけてるときはパーティーの列席者として、外してるときは本役として、っていう切り替えがなされていく。アンサンブルなしの舞台ならではのアイディアだし、ロビーの見てる光景にも受け取れる。まったく知らない世界に飛び込んだうえ思わぬハプニングに見舞われ、焦りや不安を抱え、列席者が怪しく不気味に映る。し、見分けをつけられるような余裕もない。的な。
  • 爆モテ体質のロビーさん、パーティーの列席者たちにもモテる。〈退屈極まる政治の世界 輝く彼こそは救世主〉だそうで……そ、そんなに……?〈とても素敵ね〉〈切れ者みたい〉〈話してみたい〉〈誇らしい姿〉〈彼の輝きに目を奪われ〉〈秘密を纏い〉〈視線を奪う〉……そ、そんなに……!?
  • 上流階級とはかけ離れたお育ちのロビー、セレブリティッシュなパーティーに突如現れた異端者。彼の隠し切れない純朴さはおのずと発光してしまうのでしょうね。このパーティーの主役であるジェイムズが様子をおかしくし、マスターのベリンガムが名前を呼ぶ。〈ミツバチが花に群がるように みんな追いかける〉それだけの人物が目をかけるということは……という、付加価値もつくんだろうな。あとなんといってもかわいい。分かる。かわいい。
  • 一方で〈ワケがありそう〉〈敵のスパイか?〉〈コネでもあるの?〉と異質な存在を怪しまれてもいるロビーさん。ここの歌割はマスク・ド・あかりさん→光明さん→大貴さんで本役はマリリン→ウィリアム→サーシャと主催側チームなのがよくできてるなぁと思う。
  • ↑というようにもちろんウィリアム氏は疑いまくってますよ。〈彼はおかしな態度 彼は裏があるはず〉マスクなしなのでウィリアムとしてのパート。
  • 時同じくして、逃げ惑うロビーを目撃してしまうダナクロ。ウィリアムがサーシャと話しているのを聞いて芽生える好奇心。招待状に口紅で電話番号を書くの、おしゃれだなぁ。
  • 「きみたち、ここで何をしてる!」いやアンタが落とした招待状で来たんだよ。笑(お胸のあたりで感じるウィリアム…………)
  • 逃げ続けるロビー。ヴェルクロはなかなかコールしてくれない。舞台上では「ちょっとしたもの」高いワンピースを着たヴェルクロが微笑みながらケータイを振ってロビーの見えないところを通り過ぎていくんだけど、実際はいないはずなのにロビーの心情を表しているよう。悪魔の微笑みにも見える。
  • ロビーをやっと捕まえたベリンガム。「そう、あなたはそうした。でも、分からないだろ?二人が同じ気持ちかどうかなんて」この言葉をきっかけに険悪になる二人の会話。その末は、「きみは私をなんだと思っているんだ!」「じゃあ、アンタは俺をなんだと思ってるんだよ!」「なんだと思っているか教えてやろう!」と口論に発展してしまう。ウィリアムたちによって止められるけれど、もし誰も介入してなかったら、ベリンガムはロビーに何を言っていたのだろう。
  •  「同じ気持ち」。そもそもが「金持ちのおじさんが金のない若者と出会うサイト」がきっかけなので、この時点である程度のギブ&テイクは共通認識としてある気がしていて。でもベリンガムは紳士的で、お金をくれるにもにこやかで(拒否しても「出してあげたいんだよ」って言ってくれるし)もしかしたら、そもそも現金をもらう目的ではなくて、その日のディナーを奢ってもらって生活費を浮かそう……くらいの発想だったのかもしれない。甘いけど。そして3ヶ月以上付き合っても性急な誘いや無理強いはなくて……“尊敬できるお父さん”的な感情ってそういう過程で生まれたんじゃないかなぁ。居心地としてはよくって、ベリンガムも息子みたいな友人として接していてくれるかな?みたいな。だから、1000ポンドと花束に青ざめるし、「慈善事業じゃない」って言われると、それまでは自分が売春になっちゃう!って回避してたけど、ベリンガムの言葉を受けて、あなたが買春しようとしてたのか、今までずっとそういう目で見て、お金は「出してあげたい」んじゃなくて俺を金で買えるって思ってたのかよ!なんて思っちゃったのかなぁ。
  • では、ベリンガムが実際に買春しようとしていたのか?といえば、そうではなくて、彼は彼で本当にロビーと恋愛がしたかったのだろうな……と思う。ベリンガムの財力をもってすれば相手を屈服させるのなんて容易だし、ロビーが“その気”だと分かれば尚更。でもそれをしなかったし、ロビーがサイトきっかけでありながらももっと純粋な気持ちで自分に接してくれることが分かって、それで好きになったんじゃないだろうか。お金を「出してあげたい」のは本心で、でもロビーの思う施しとは違う。ベリンガムにとってお金は手段だし自らの力だから、高級なプレゼントや困っているロビーに差し出すポケットマネーはすべて愛の誇示。ロビーの、生活のため、っていうのとは価値観がまるで違う。これだけの愛を示しているのだから、ロビーに同じ気持ちでいてほしいと思うのは当然だし、そしてベリンガムは、財力でロビーを自分と同じステージに引き上げたうえで恋愛がしたかったのだと思う。貴族と貧困層、自分がロビーの方へ降りていくことはなくて、オールド・コンプトン・ストリートを〈そんな場所〉と言うくらいだから。ロビーの心や体を買うんじゃなくて、分かりやすいメッセージを記したカードのように、きみを救い私を愛せ、という誘い。(まぁそれでも“人の心は金で動く”ってやり方には変わりないのですが。)金を受け取って自分の望むままに染まってくれたその姿を見せておきながら、ロビーが袖にするから……これだけ私の愛を受け取っておいて……?舐めてんの……?ってなっちゃうのは、やっぱり当然なんだよな……。ロビーはベリンガムが自分と「同じ気持ち」じゃないことに薄々でも気づいていたんだから、まったく罪がないとは言えないんだよな。
  • ロビー、本命には「ジェイムズからは金はもらいたくない!」って言うし、恋人とは対等に付き合っていたいんだろうなぁ。M2で〈たまにワリカンで食事して〉って歌うのもそれが理想で*1、だから施しを受ける関係のベリンガムとはセックスはおろか恋愛もできないし、父子のような関係としての善意の行動だと思い込みたかった節もあるんじゃないだろうか。それはちょっとずるいよ、ずるいんだけどさぁ……。ベリンガムがお金を渡すのも、ジェイムズが言う「いつでも力になるから」と本質としてはさほど違いはなくて、でもベリンガムは求愛の手段としてのそれだから、無償ではないんだよねぇ。
  • ロビーを追いかけてきたジェイムズは二人の会話を立ち聞きしてしまう。「でもきみは1000ポンドを受け取り買い物三昧」のところから。なんてタイミングの悪い。
  • ジェイムズにも見つかり、「今は説明できない!」会場を脱走するロビー。追いかけようとするジェイムズ。ウィリアム「ジェイムズ!ゲストの相手を。ベリンガム卿はちょっといいですか」「……もちろんいいとも」取り乱してたベリンガムも体裁を繕うことはオトナとして知ってるし、ウィリアムはマジでちゃんと仕事しててえらい。
  • 何も言ってくれないジェイムズに何も言えないマリリン。床に投げ出されたスマホを見つけ、ロビーのものだと気づく。
  • 〈何を隠しているの?〉聞けずにいるのはマリリンも同じ。〈わたし 何が怖いの?〉〈彼は見たくなかった何か突きつける人〉わたし、の音程がすごく不安定というか、マリリンの不安が伝わってくるようで。
  • ドレスアップしていないサイドサドルが人知れず現れる。グラスの乗ったシルバートレーをひっくり返す。飲み物が入っているのにこぼれないギミックはACT2のサイドサドルが魔法使いであることを示すためのファンタジックな演出かな。会場のみんなには見えない、いない、ようで、いる。
  • 〈彼は揉めてたみたい〉〈彼は逃げてたみたい〉内輪のみならず列席者たちにも騒ぎが伝わってしまう。マリリンの手の中で鳴るロビーの着信音。手を振りかざすサイドサドル。ビッグ・ベンの鐘が鳴り響き、暗転。

 

【S2 トラファルガー広場 ライオンの前足の横】

〈♪M11 They Don't Make Glass Slippers〉

  • S1ラストの着信と鐘が午前0時の合図。ここでロビー、自宅へ逃げ帰るとかじゃなくて、ジェイムズとの思い出の(いつもの)場所に来てしまうのがまた……無我夢中で走って足が無意識に向かってしまったんだろうなぁ。
  • 逃げ出したロビーを追いかけてきたジェイムズ。から喧嘩になる二人。結論から言えば仲違いのまま終わってしまうんだけど、そもそもこの二人、主張したいことがそれぞれ違うし、それに対するフォローがない。それが聞いてて本当につらい。喧嘩ってそんなものだけどさ……。
  • ロビーの主張は『貞操の潔白』。ジェイムズに「ベリンガム卿のことなんで知ってるんだ」って聞かれて、「でもあの人とは寝ていないよ!」プロセスよりも結果が先。ベリンガムと一緒にいたのは「ただの友だちとして、彼に同情したんだ。ほんとに純粋にね?」「彼はだんだん変わっていって、俺に金や物をくれるようになって」って、見てる方からするといやロビーさん「金が必要だった」が動機なのにそれは……って感じなんだけど、ロビーにとってはこの内容もたぶん事実。マスコミが自分をレントボーイと書き立てると言われ「俺はあの人とヤってない!」「ジェイムズ!俺はアンタの恋人だろ?レントボーイじゃない!」ここのジェイムズ、ロビーの身を案じもせず憶測の(その通りになりますが……)世間の評判でロビーを侮辱するようなことを言ってるのに、ロビーはその点でジェイムズを責めるというより、ただ自分の立場を断固として主張する。ジェイムズを陥れようとしたんじゃなくて……、みたいな、相手への配慮はなくて、けど「俺はアンタの恋人だろ?」「俺はアンタに恋をした。だからパーティー会場にはいられなかった」って、ひどいことを言う彼に失望するのではなくひたすらに好き!を叫んでる。責める、と言えることがあれば、「どうして話してくれなかったんだ!」に対する「そっちだってあるだろ!俺が聞けないでいる……、たとえば、フィアンセのこととか!」で、それはロビーが抱えていたかなりの本音。でもそれは(今のジェイムズには重要事項じゃないので)スルーされてしまう。「ほかの誰かと一緒にはいられなかった。いたくなかったんだ……!」ってジェイムズのジャケットを掴みながら漏らすロビー、パーティー会場でジェイムズがほかの誰か=マリリンと一緒にいるところを直接目撃してるんだよな……って考えると、自分はジェイムズへの貞操を守ってるし「アンタの恋人」なんだってことを何よりも分かってほしい、ってなるのはとってもよく分かるというか、気持ちが痛切に伝わってくる。
  • 一方でジェイムズの主張は『スキャンダルへの恐れ』。ロビーがなかなか口を開こうとしないこと(いや、したんだけど。ジェイムズが「僕が思ってるようなことじゃないよね!?」って大声出すから黙っちゃったんだし)に対し「きみには、説明する義務がある」って、それは「僕は、市長選に立候補している」からっていうのが、市長という立場も、このままロビーのことも、どっちも得たくてそのためにうまくやってきたのに、よりによってロビーの行動ですべて崩れてしまうなんて……!という焦燥を生み出してしまったんじゃないかなぁ。ロビーはジェイムズに貞操の潔白を一生懸命説明するけど、ジェイムズは貞操がどうとかじゃなくて疑わしき行動そのものに対して怒っていて、だから「先々どうなるか考えなかったってわけだ!」「でも金は受け取った。金は受け取ったんだ!」って、たとえセックスしてなくてもロビーに怒鳴る。「『経済界の大物、金を払ってゲイの若者とお楽しみ』挙句はきみが同伴接待していたと書き立てるだろう。最悪は……レントボーイだと!」「『市長候補、フィアンセがいるのにレントボーイと浮気』!悲惨すぎて笑えるよ」って、憶測の見出しにロビーを侮辱するようなことまで並び立てる、それはジェイムズが自分で言っていた「僕が嫌いなのは、人にレッテルを貼ることだ」に他ならない。ロビーの言葉に対して、きみの身が潔白なのは分かった、とか、聞くそぶりもない。ひどい。せめて大丈夫だったか心配してくれよ……。けど、それだけジェイムズは、世間体を気にして生きていかざるを得ない人物なのだと思い知らされる。政治家として信頼を得るためには“あるべき姿”を見せなければならない。本当はゲイだということを公表したくもなるけれど、世間の目はまだ冷たい。分かっていて、身に染みているからこそ思いついてしまう。今まさに作り上げている“誠実”で“あるべき姿”から遠ざかってしまう恐れが生じたとき、「この事態がどう見えるのか分かっているのか?」言葉を成してロビーを責めてしまう。でもこれって、ジェイムズのような立場じゃなくても、社会で生きていれば誰しもが置き換えられる行動、生きづらさ、なんじゃないかなって思えてしまってなぁ。
  • 自分の立場を守る。ジェイムズ、それしか頭にないのか、といえばわたしにはそうは思えなくて。だってジェイムズはロビーを追いかけて、確実な目的地が分からなくてもトラファルガー広場に来たから。パーティー会場を抜け出したのはジェイムズも同じで、なぜならロビーと話がしたかったから。ロビーを見捨ててパーティーを最後まで全うする選択肢もあった……というか、そうしたほうが体面としてはよろしいのに、現にベリンガムはロビーを追いかけないのに、ジェイムズにはそれができなかった。たしかにひどいことを言ってしまうけれど、「俺はアンタの恋人だろ?レントボーイじゃない!」ってロビーが叫んでるとき、ロビーにはジェイムズの震える背中しか見えないけれど、その裏でジェイムズ、必死で何かを耐えるような顔をしていて、それは怒りだけじゃないと思うの……。ロビーのことが大好きだから、「恋人だろ」って言葉、刃のように突き刺さってると思うんだよな……。
  • ロビー「そっちだってあるだろ!俺が聞けないでいる……、たとえば、フィアンセのこととか!」に対してジェイムズ「でもそれ*2は、僕に話すべきことだった」ってスルーなの、ロビーは『ジェイムズ以外の男との関係を秘密にしていた』ことを質されてると思ってるから、そっちだってフィアンセがいるのに!って言うけど、ジェイムズは『ロビーがベリンガムと関係を持っていたことについてのリスク』を考えているので、フィアンセのことをロビーに話していないのはこれからのリスクには差し障らないから、ジェイムズの中では今の議題じゃないんだよね。ロビーの必死の訴えにジェイムズは「もう無理だよ」と告げる。ジェイムズとしては、どんなに想う心があっても世間に露見してしまったら手の施しようがない……ロビーへの愛そのものとは無関係、外的要因の「無理」で、だから「僕はなんてことをしたんだ!」と吐き捨てる。きみは、じゃないんだよね。あんなつらそうな顔してたのに、ロビーの手を取ってあげられない。でもってその想いは、恋愛に対して愛でしか生きてないロビーには、伝わりきらなかったと思うよ……。生き方の違い故にすれ違ったままの喧嘩になってしまったんだと思う。
  • 「俺はあの人とヤってない!」東京公演ではジェイムズのレントボーイ発言にすぐカッ!と返しててその地雷感もよかったし、地方からは「俺は……、俺はあの人とヤってない!」って、少し間を取ってからの絞り出す言い方に変わってて、ロビーの心からの主張であることがより分かりやすくなったな、という印象だった。ロビーさん、ショックで一瞬言葉を失うし、そこから絞り出した心からの想いをすぐ打ち返してしまうほど「金は受け取った」ことが重要に思えてしまうジェイムズ。
  • 名前を呼んでもジェイムズは戻ってきてくれない。失意の中、スマホがどこにもないことに気づくロビー。ポケットというポケットを探して、「ない……ない……なんで……ッ」って声にならなくなってしまうのが前半公演。後半公演から「なんで……なんでないんだよ……ッ!」って声に出して嘆くようになって。どっちも素敵なんだけど後者の方が悲しみをぶつけられるような感覚があってより痛みが伝わってきたかな。ただスマホをなくした、というだけでなくて、スマホは自分とジェイムズをつなぐ絆、ときにジェイムズの化身となり得るほど大事なものだったから、それがない=ジェイムズとの絆をなくしてしまった、と思えるほどの喪失感があるのではないだろうか。喧嘩別れの状況だから尚更。
  • 涙ながらにつぶやくようなアカペラ〈世界に愛されることを夢見てきたけど 愛されるのは一部の誰かだけさ〉から始まるThey Don't Glass Slippers。ロビーの心の軋みを歌ったもので、ジェイムズとの喧嘩のあと、彼の名前を呼びながら入るこの歌に、それでもジェイムズへの直接の怒りはあまり含まれていないんだよね。(まったくない、とは言いません。)
  • 〈ガラスの靴はどこにもない まして俺に合うサイズは*3〉〈運命変える魔女もいない 俺にはすべてがおとぎ話〉ここまでを悲しみの落涙が如く歌い、そのあとに続く〈ガラスの靴は残酷だ〉は怒ったように叩き付ける声で。〈夢だけ見せて〉→〈砕け散る〉まさしく、硬かったものが砕け散るように、どんどん弱々しく。〈王子様が去るならば 夢見る前に教えてくれ〉王子様(=ジェイムズ)を歌うときはジェイムズが去っていった方向を見ながら。〈夢見る前に〉あたりでまた語気が荒くなる。だからこれ、去っていったジェイムズやほかの誰かへの怒りではなく、ガラスの靴をはくことができない自分の運命への嘆きなんだよね。王子様が去ることじゃない、夢見る前に教えてくれれば最初から砕け散るだけのガラスの靴を履こうなんてしなかったのに……。
  • 〈世界に愛されることを夢見てきたけど〉貧困も差別も乗り越えて、ただひたすらに愛だけを想ってまっすぐに手を伸ばしてきたロビー。最初に見たときは、そんなこと言ったってロビーは周りの人に愛されてるじゃんって思ったけど、違うんだよね。今までロビーが語ってきた夢の数々を思い出せば、人生最高の恋人と、この先30年隣で目覚めていたかった、無理しないで愛し合って自分を好きでいられる日々が「普通」になってほしかった。そのためなら少しの我慢もうまくいく保証のない行動に踏み出すこともできる。〈世界に愛される〉どんなに誰に愛されても、そこにジェイムズたったひとりいなければ、ロビーの夢はかなわない。〈愛されるのは一部の誰かだけさ〉誰かって、自分とはまるで違う上流階級の人かもしれない、世間に当たり前に認められる性的指向の人たちかもしれない、そしてそこにはジェイムズのフィアンセもいるのかもしれない。〈運命変える魔女もいない〉2回目のフレーズはもっと強い叫びのニュアンスで、〈運命〉って言葉がますます重くのしかかる。
  • 〈すべては悲しいおとぎ話〉嘆きのまま、その場で眠ってしまうロビー。いや、外やで!?って毎回律義にツッコみたくなるんだがw、ロビーさん、前日にオールしてしまって一睡もできてないんだよね。加えて慣れない社交界への参加、からの喧嘩、失望で、あらゆる糸がプツーンと切れて……ミュージカルだから歌うけど、リアルに置き換えるなら、その場で動けずに泣き続けていつの間にか気を失ってしまったんだろうなぁ。それにしてもロンドンの春は寒そうなので心配です(お節介)

 

【S3-1 ジェイムズ・プリンスの選挙事務所】

  • 翌朝。重たい空気が垂れ込める選挙事務所。
  • 舞台上手では事務所でのやり取りが進む中、下手の暗がりではロビーがS2のまま眠っている。ロビーの知らないところで無情にも事が運ばれていく演出は、無力さというか、ロビーの“捨てられた仔犬”感がますます浮き彫りになる。
  • ジェイムズ、ウィリアムが自分について話しているというのに、「そして全員が、今朝、説明を求める電話をかけてきた!」って資金提供者リストを机に叩きつけても無反応。再度ウィリアムに叱責されて初めて事のいきさつを語り出すジェイムズは、どことなく虚ろで……顔に憔悴って書いてあるような。
  • その理由、昨夜の喧嘩に引き続き『スキャンダルへの恐れ』も当然あるだろう(これからなんて話せば……みたいな)けど、それだけじゃないな?っていうのがやり取りを聞いて想像できる。あくまでも知ってることを淡々と、自分は何も知らなかったけどベリンガムはロビーに金を払っていて、ロビーと自分は「4ヶ月、付き合ってる」ってそんなところまでごまかさずに話すジェイムズ。そして「あの若いやつか」「ベリンガムに雇われてた……つまりはレントボーイか!」と言うウィリアムに「名前はロビーだ」「彼はそんなんじゃない!」って時に声を荒らげて訂正を入れたり、「セックスに金を払ったかって?ありえない!彼との間に、金のやりとりなど一切ない!」と自分たちの関係は(ベリンガムと違って)あくまでもクリーンで純粋だったと主張する。話の中でジェイムズが怒るのは、ロビーのことを言われたときで、ジェイムズそれって、ロビーのことめっちゃ好きじゃん……っていうな……。レントボーイって、あんさんも昨日ロビーに言ってしまったやつ*4……。だからその憔悴顔、もしかして昨夜の喧嘩をすごく後悔しているんじゃないか?己の感情を優先にロビーを突き放してしまったことへの後悔、も含め、政治家として恋人としてひとりの男として……いろんな感情でぐちゃぐちゃになって家で頭抱えてたんじゃないかな……って想像してしまう。
  • さらに想像だけど、その様子、きっとマリリンも見てるんだよな……で見てるけど詳細は聞けないor聞いても答えてくれないんだろ、マリリン、どんな思いで……。ジェイムズが真実を正直に話すたび落胆するマリリンの背中が切ない。
  • ジェイムズの話をひととおり聞いてブチギレウィリアム。「クソッタレ……ハレルーヤ!」「フィアンセがいるのに、秘密の恋人!しかも、それがゲイのレントボーイ!どっかーん!完璧な大爆発だ。スケジュールは白紙!選挙も吹っ飛ぶ!」お口も態度も悪いけどここはウィリアムの言い分も真っ当。懸命に積み上げてきたものが一夜にして崩れ去り、しかもそれが手塩にかけて育てた理想の市長候補による淫行(とウィリアムは思っている)という、もっとも汚い形であること、そりゃあブチギレも当然なんだよな。
  • 行き場のない怒りをサーシャにぶつけるウィリアム。(それはあかんやつ。)対してマリリンは「彼(ウィリアム)の前では話し合いたくない。家で待ってるわ」って、冷静な場に持ち込もうと自分も一度離れるの、本当に賢い。居た堪れないっていうのもあるんだろうけど。
  • といってマリリンにもやりきれない感情がある。去り際、選挙ポスターを眺め「虚しいわね」と言い残す。

【S3-2 選挙事務所の外】

〈♪M11a Spin - Reprise〉

  • ひとりになってから、ジェイムズの所信表明(M3)を口ずさむ。それを、〈笑うしかない〉と嘆くマリリン。
  • ここでマリリンが拾ったロビーのスマホが鳴る。迷った末に応答するマリリン。(夜中も何度も鳴ってたんだろうなあ。)着信の主はヴェルクロで、彼女たちが初めてつながった瞬間。
  • 何も知らないヴェルクロが無邪気に言う「ロビーにスマホを届けてあげてくれないかな?」にマリリン「なんですって。いやよこんな薄汚いもの。私は返しに行きません!」って、おそらく劇中でマリリンが一番声を荒らげるのがここ。今まで薄々勘付いてはいた、でも現実であってほしくなかった『フィアンセを寝取る男』の存在を突きつけられて、ため込んでいた黒い気持ちを抑えきれなくなってしまったんだろうなぁ。当人であるジェイムズに対してはなるべく冷静に、ウィリアムの行き過ぎた発言を咎めることもできるのに、一瞬でも爆発してしまうのが知らない人相手っていうのが、また。
  • ロビーにとってスマホはジェイムズとの絆。それをマリリンが「薄汚いもの」って吐き捨てるのが悲しい。マリリンはジェイムズがロビーに電話をかけている姿を(相手がロビーだとは知らずとも)目撃しているんだものなぁ。

【S3-3 再び選挙事務所】

〈♪M12 The Tail That Wags The Dog〉

  • 「まず家に帰れ、シャワーを浴びて身ぎれいにしろ。きみは貧民窟の連中と付き合っただけじゃない、ドブのにおいまで体に染み込ませたんだからな」という皮肉に重ね、「俺がこの選挙を救えるかどうか……やってみようじゃないか!」と仰々しくのたまうウィリアム。この時点でけっこう……うそくせ~……って思うんだけど、信じて頷くジェイムズ、チョロいよ~!案の定、ジェイムズが去った途端に態度を変え、ダナクロの電話番号が書かれた招待状を取り出し、机に脚を乗せふんぞり返るウィリアム氏。
  • あんまり自信ないんだけど、ここのサーシャのリアクションも時期によっていくつかあったような。ウィリアムの言葉を信じて、期待に顔を輝かせながら椅子を用意するも、ふんぞり返るウィリアムにハッとする。のとか。ウィリアムの言葉にもその後の行動にも不穏な空気を感じて、何をする気……?と警戒しながら椅子を用意する。のとか。
  • ダナクロに電話をかけ(クローダちゃんがおっぱいからスマホを取り出すのがツボでした)(そしてダナクロの着信音が危険サイレンなところもw)マスコミを向かわせるからロビーのことを下劣に盛って話すよう頼むウィリアム。「あたしらに何の得があるの?」と聞かれ「記者たちはきみたちに大金を払う。保証するよ。まぁ、注目されることを楽しんでくれたまえ」と言うウィリアム、人間の欲望が何を求めるかよく分かっている狡猾な策士。サーシャは後ろで、なんてことを……、みたいな顔でウィリアムを見ている。そんなのはお構いなしに「いいかスクラップ。これはチャンスなんだ。最高のチャンスが来たんだ!」ってサーシャを揺さぶりながらはしゃぐウィリアム……かわいいかよ……。
  • M3でも本音がポロリしていたウィリアムさんですが、こちらはまさに本音全開。〈世間の評判こそ勝負を決める それを操るのは俺の声だ〉〈鮮やかに喝采浴びる政治家も つまりはこの俺の操り人形さ〉って、ウィリアムが今まで確固たるイニシアチブを己のプライドとしてきたことが分かる。まぁ、そんなの言われなくても態度で察してたけど……笑 のちのジェイムズの言葉を借りれば「分かりやすい男」なんだよな本当に。
  • ウィリアムにコートを着せようと構えるサーシャだけど全然着てくれない(サーシャに気づかない)ウィリアム氏。この男、本当にサーシャのことを見てない。
  • 何度も書きますが笑、ウィリアムどんどんノリノリになるので、〈心浮き立つ 後釜を探せ〉は終盤になるほどアーハン感がつよく……(アーハン感とは)サーシャに体を預けて片足を上げ、浮き立つ感を表す振付がかわいい。
  • サーシャのコーラス、特に最初の〈形づくり〉が低っ!って見始めのころ慣れなかったんだけど、元が女性パートだからかな*5。どこか恐ろしさというか、おぞましさを感じているような表情のサーシャと、そんな顔色を窺うはずもなくノリノリで歌い上げるウィリアム。
  • 〈誰もが秘密を隠してるなら それを使ってのし上がるだけだ〉ということでベリンガム社に乗り込むウィリアム。スキャンダルをネタにベリンガムをゆする。「とはいえ、我々がどちらのストーリーを語るかにかかっている。僕のストーリーは、『変態ジェイムズ・プリンスがゲイの恋人を資金集めのパーティーに招いた』というものです」と言いながらベリンガムにサーシャを押し出してぶつけるあたりに心底意地汚さを感じる。ベリンガムに“男性”をぶつけてるんだよね。わざと。
  • 「レントボーイ……彼に払ったのは、そういう類の金じゃない」と言いながらも。スキャンダルの情報操作が己の身の振り方次第だとゆすられて、「……分かったよ。私が巻き込まれないためにはいくらいるんだ?」とウィリアムの計略に乗ることを選ぶベリンガム。ロビー側からすればひどいんだけど、今まで付き合ってくれたことの感謝で飲むこむのではなく。裏切りと受け取って見捨てるあたりにベリンガムの本気を感じる。愛してたから裏切られるし、愛してたからこそ裏切るんだよなぁ。
  • 舞台上手で↑の会話が繰り広げられる中、下手では依然ロビーが眠っているのもまた、前のシーンに引き続き残酷よなぁ。ちなみにそんな地獄はつゆ知らず天使の寝顔を晒すロビーですが、上手の会話でロビーの話題になったときに寝返りを打つとか、動くタイミングも計算されているようで、邪魔にならないけど気になる絶妙な演出が良いなと思いました。
  • スキャンダルをねつ造する見返りに10万ポンドを要求し、ベリンガムに「きみは狂ってる!」とブチギレされるウィリアム。「私腹を肥やすためじゃありませんよ。新しい市長候補のための選挙資金です。つまり……僕のね」と、自ら立候補することを不敵に宣言する。ベリンガム社に乗り込む前、後釜として〈ガラスの靴 ピタッと合う足を持つ〉ヤツを探していたウィリアムは、それは自分だと確信し、ガラスの靴を履こうとする。……それ、ジェイムズが履いてたやつなのでは……?ジェイムズをシンデレラとして物語を考えるとき、ウィリアムは意地悪な継母になるのだと思う。シンデレラはその器ではないと勝手に判断し、現れたガラスの靴を、自分がプリンセスになれると証明すべく履こうとする。その結末は……お察しなのだけど。部下にガラスの靴を履かせてもらう振付で、ガラスの靴!ピタッと!合うッ♡みたいな感じでテンアゲに歌うウィリアムめちゃくちゃ好きなんだが、ウィリアム的には、〈後釜は誰だ うまくやるヤツは ガラスの靴ピタッと合う足を持つのは〉……この俺だ!!的な、確信を得ているシーンなのかな。
  • 「失敗は許されないぞ、ウィリアム!絶対に!」「誰に言ってるんですか!」からの〈下がれ! 任せろ!〉と高らかに歌い上げるウィリアム。パーティー会場で激写したと思われるロビーの写真を得意げに見せびらかす。……えっどのタイミングで撮らせたん!?wwプリントされたそれが入ってるであろう封筒をいくつもばら撒くオフィスワーカーたち、必死にモップで掃除するサーシャ。
  • 写真が出てくるちょっと前くらいに下手でやっと起きるロビー。寒そうに体をさすってはける。
  • 時同じくして。足早に道を行くマリリンとリキシャに乗ったサイドサドルがぶつかる。マリリンに魔法をかけるようなモーションをして去るサイドサドル、彼女を怪訝な目で見るマリリン。カバンからロビーのスマホが落ちたことに気づき、拾い上げて、何かを決意したように歩みの方向を変える。
  • 市長選に名乗りを上げたウィリアム。でもその方針は「市民のための忠実な犬になりますよ」〈まるで忠実な犬のように見せて 何より大事な骨は俺のものだ〉って、世間にとっての善良を装いながら目的はロンドンを良くするのではなく、その絶大な権力そのものっていうだけ。ゲームマスターになりたいだけなんだよな。それは、ジェイムズの選挙本部長をしていたときから何ら変わりなく、自分がプレイヤーになるっていう、やり方を変えただけ。ぶれない男だなぁ。
  • 〈肉体の奥で強く貫く 骨は俺のものだ!〉って、野心に溢れたウィリアムをよく現したいい歌詞ですよね。のわりに聞き取るの最後まで苦労した……!何もかもすべてをてにいれてやるぜぇ!ってあからさまに言うんじゃなくて(最終的にはそうなんだけど)狙い外さずコアを手に入れることでスマートに主導権を掌握してやろうって感じがウィリアムっぽいなと。

 

【S4 コインランドリー シット&スピン】

〈♪M13 Let Him Go〉
〈♪M13a Wishing For The Normal - Reprise〉

  • ビッグ・ベンの鐘が鳴り響く。
  • ウィリアムたちが去り、ひとりぐったりと立ち尽くすサーシャ。眼鏡をはずす。これがウィリアムとの決別を心に決めた……というか、今の環境に限界を感じた瞬間なんだろうな、と思う。
  • コインランドリーには何も知らなヴェルクロがひとり。そしてそこに訪れるマリリン*6*7
  • 「来ないんじゃなかったの?」「気が変わったのよ」ここ、元吉さんがインタビュー記事で言ってた、何の説明もなくセリフひとつで話が進むところがあって~のところかな?そんなに違和感なかったけど、すんなり飲み込めるように流れを作ってくれたのかな。サイドサドルとぶつかるマリリンのシーンなんか特に、ここにつながるようにしてくれたのかな~と。
  • 「わたしが知っているのは、彼がわたしのフィアンセと寝ていたことだけ」重めの言葉から始まるマリリンとヴェルクロの対話。なんとか弁明?の言葉を探すヴェルクロだけど、マリリンの顔色を見て「……大丈夫?お水持ってこようか?」って、状況に限らず純粋に心配してあげられる。そして初対面の年上の女性にもガンガンタメ口だけど嫌味じゃないフランクさ。優しさがどこからもにじみ出ていて、だからマリリンも話す気になれたんだろうなぁ。
  • 「ヴェルクロって、変わった名前ね」とマリリンが聞いたことで、ヴェルクロはあだ名で本当はソニアって名前だったことが判明。ちなみにVelcroはマジックテープのことだそう。ヴェルクロ、それこそサイドサドルのように、みんな親しみを込めて呼んでるし、彼女自身も名乗っているから蔑称ということでもないけど、それを聞いたマリリンが「ソニア」と彼女の“名前”を呼ぶのが、上っ面ではないマリリンの心優しき部分の現れ。
  • 「ジェイムズはいい人よ。いつも自分より他人のこと*8。彼みたいな人、他に知らない」言葉に迷ったヴェルクロに対してジェイムズのフォローをするマリリン、↑に続いて優しさ溢れるポイント。怒ってたし遣る瀬無さもあるけど、いないところであってもちゃんとフォローするんだよな。最大の支援者だよマリリン。
  • ジェイムズがゲイ、少なくともバイセクシャルだと知りながらフィアンセとなったマリリン。「わたしたちはセックスもするし、……していたし」って言い直すのでマリリンがセックスレスに悩んでるのもその原因を分かってる感じなのも伝わってきて切ない。M6でかわされたマリリンはお茶目にジェイムズのPCを閉じるけれど、その胸の内にはどんな想いを抱えていたんだろうなぁ。だし、ジェイムズそれは、体は正直(性的指向よりも想いのベクトル的な意味で)ってやつやないか……。
  • 「都合がいいんだろうと思ったわ。“有権者にいい印象を与えるカップル”としてね」とジェイムズのプロポーズの真意を悟ったうえで、それでもこの打算の見える婚約を承諾した理由として「38になって、時計の針が早く動き出した、っていうか。で、自分に聞いたのよ。「ねぇ、結婚して失うものが何かある?」って」と年齢のことを挙げるマリリン。年の差を感じさせず対等に笑い合うジェイムズ*9とロビー*10、〈ゲイのジジイの狂い咲きで悪いか〉とハッスルするベリンガムなど、男性陣の恋愛模様に年齢の障壁はあまり気にならない*11のに対し、このマリリンの発言や、クローダの「わたしはもうこの手のゲームには歳を取りすぎた」にもあるように、女性は“年齢”がキーワードでありリミットなんだなぁ、心も体も。(このあとそれをヴェルクロが否定してくれますが。)
  • 選挙と世間体を気にしたジェイムズと、年齢を気にしたマリリン。「わたしたちはある意味お互いを利用していたんだわ」と結論付けてしまうのは、年齢を理由にするよりずっと苦しくて切ない。「恋をしなくていいの?」というヴェルクロの問いに「いいカップルを演じすぎて、いつのまにかわたし自身がそのおとぎ話を信じちゃったのかも。恋してるって気づく前に、彼に恋をしてた」と答えるマリリン。それは、ジェイムズを利用している後ろめたさを自覚しながら(都合よく誘われたことを分かっていながら)、彼を好きにならずにはいられなかった彼女のピュアな恋心。そして、ジェイムズが自分と同じ気持ちで恋愛をしてはくれない(愛してくれていることは紛れもなくて初めは可能性があったかもしれないけれど、そのうち彼の心の中に他の誰かがいることに気づいてしまったから)と悟ってしまっても尚、社会で形を保つためにはお互いが必要だから、離れず、そのまま「理想の二人」でいられる……いてほしい、という、ずるくとも切実な拠り所だったのだと思う。
  • ジェイムズには「あなたは変わらないし、わたしはあなたを変えられない」とキッパリ言えるマリリンが、ヴェルクロに「彼を変えられるって思った?」と聞かれたときには「わたしは……、誰かを必要としていたのよ、ソニア」って、Yes or Noで答えないんだよなぁ。その心情はいかほどか。ジェイムズに伝えることのとおりなのか、それでも変わってほしいor変えたい思いがあったのか。「きっと必要だという思いの方が、“誰”を必要とするかより強かった」って自分の中の弱さをこぼすこと、ヴェルクロに以外にも今まで誰かにできていたのかなぁ、マリリンは。
  • 「彼がゲイだって、本当に知らなかったの?」「……知ってたわ。少なくともバイセクシャルだってことは」「わたしたちは親友だったのよ、何年間もね」マリリンの言葉を聞いて、自分(たち)と重なる部分があると分かったヴェルクロ。人知れず傷ついてきたマリリンにヴェルクロは、「わたしは、会った途端にロビーに恋をしたけれど、何もないって分かってたからね」と打ち明ける。同じく自分の痛みをさらけ出すことでマリリンを導こうとする、初対面の女性にここまでしようと短い時間で決断(彼女にとってはそれほど重いものではないかもしれないけど)できるヴェルクロ、その人そのものとまっすぐ向き合える素敵な人だなぁ。
  • 「わたしとロビーが親友になるのに、ゲイが妨げになることはなかったよ。わたしたち、兄と妹みたいなの。……ていうか、姉と妹かな?実際は」ひとつ前の言葉は少し自嘲的なニュアンスがあったけど、こっちにはそういう我慢とかはそれに比べれば感じられなくて。「妥協することないと思う。38はまだ年寄りじゃないもん!」「アンタに必要なのは、理想の男を見つけることだよ。アンタを幸せにしたいって思ってくれる人。都合がいいって思うんじゃなくて」マリリンに力強く告げるヴェルクロは、きっと彼女自身が誰よりも『幸せになる』ことを理解している。恋を成就させたい気持ちは当たり前のようにある、けれどロビーを「彼は自分をごまかせないから」と言うように、ヴェルクロが一目ぼれの恋を経て愛したのは、ゲイで、とても素直で、無理せず愛し合える最高の男を求めてる、そのどれもが欠けてはいけない、ありのままのロビーなんだろうなぁ。だから、ロビーのまっすぐなベクトルを曲げてまで付き合うことは彼にとっても自分にとっても幸せにはならない。じゃあどうする?ってときに、ヴェルクロは、ロビーに恋をしている自分を認めたうえで、彼と「親友」でいることを選んだ。恋愛できないことは諦めじゃなくて、親友でいることは妥協じゃない。ロビーの幸せを想って、自分の幸せを求めて、それぞれが幸せになれる道を見据えることのできるヴェルクロ。そんな彼女だからこそ、マリリンに力強く助言することができる。
  • 「彼を変えられるって思った?」マリリンがはっきりとは答えなかったこの質問、ヴェルクロもロビーにちょっとでもそう思ったことがあるんじゃないか。恋した瞬間から可能性をなくしたヴェルクロが、可能性がないと思っていた相手からアプローチを受けた、自分と逆のプロセスをたどりながらも、“叶わぬ恋”という同じ分岐に着いたマリリンに、あなたはどう?って聞いてみたくなったのかな、とか。
  • 「わたしのママは43でわたしを産んだの。つまり焦ることないし、普通がどうとか関係ない」ヴェルクロ、自分は〈普通になりたい(=自分の望むありふれた暮らしを普通と呼べるようになりたい)〉と願っているのに、マリリンを苦しめる社会通念としての「普通」を理解して、同じ響きのそれでも相手には否定してあげられるの、強くてとても賢い子だなぁ。リミットを気にするマリリンに自分の母のことを教えたけれど、ヴェルクロ自身は若くして子どもを産みシングルマザーになったんだよね。年齢としてはリミットと真逆かもしれないけれど、社会通念としての「普通」に囚われない、という意味では、ヴェルクロもお母さんと同じ位置にいる。描かれてはいないけどもしかしたら、まだ若いのに、とか、旦那もいないのに、とか、いろいろ言われたりいろんな目で見られたこともあるかもしれない。
  • 「あなたって肩より下は若いのに頭は賢いのね」「ここから上は考えるため、ここから下はダンスをするためにあるの」「そしてここは」胸に手を当てるマリリン。「傷つくために」ヴェルクロ、マリリンの胸の手に手を重ねて「そう、傷つくためにある。……でも、乗り越えられる」どんなに明るく振る舞っててもマリリンにはヴェルクロの痛みが心から分かるのね。想う人も育ちも年齢も違うけれど、人を愛するゆえの痛みを分かち合うことのできる、ひとりの人と人として寄り添い合う二人。ヴェルクロの「乗り越えられる」、力強く押し出す時と、そっと落とし込むようなときとあって、個人的には前者が好きで、後者は切なさがマシマシになってそれもまた良き……。
  • Let Him Go。邦題は〈彼を自由に〉だけど、それと同じくらいの重みで〈私(たち)を自由に〉って意味が込められている気がする。ヴェルクロの歌い出し〈あなたが自由になるため 自由にするのよ彼を〉のように。〈愛に背を向けるわけじゃなくて 彼の親友になるの〉って、まさにヴェルクロがそうしてきたからこそ。〈離れた後で彼は知るでしょう あなたの愛の深さ〉ってマリリンへの深い理解とフォローも忘れない、ヴェルクロは本当に優しくて賢い。
  • マリリンの〈ためらう気持ちは捨てて 自由にしなくちゃ彼を〉って、〈しなくちゃ〉って言葉がまだ自分を言い聞かせてるニュアンスで切ないんだけどとっても良い。自分の言動である程度ジェイムズを導いていたこと、そしてこれから導けることを分かっているマリリン。〈悲しい結末は見えてたはず そうよ 叶わぬ夢〉〈想いを込めて別れることが わたしの愛のすべて〉マリリン、本当によく「分かってる」、その聡明さは彼女を苦しめるかもしれないけれど、でも、これこそが彼女の良さで、とても美しいところ。〈悲しい結末〉と無理にポジティブに飾らず素直に歌うところも良い。ヴェルクロの前でマリリンが苦しみ悲しみを吐露できてよかった。
  • 〈過去に心を閉ざすより未来に目を向けて〉、〈愛に背を向けるわけじゃなくて〉と〈向ける(て)〉のワードが共通してるから、リンクした意味に取れるのが面白いしすごく良いな。背を向けず目を向けて、愛を見つめた先に未来がある、この愛はここで終わるんじゃなくて、明るい未来になる。愛は未来だ。
  • 〈踏み出すときは怖いけど ただ光目指して〉言ってることはすごく明るいんだけど、マリリンは震える喉を叱ってどうにか声にするように歌って、耐えきれずヴェルクロの肩口に顔をうずめる。分かってるけどどうしてもつらいし、どうしてもつらいけどそうして踏み出していきたい。複雑で、でもその涙はヴェルクロが受け止めてくれるし、ヴェルクロも一緒に泣いてくれるんだよなぁ。
  • 涙に濡れた瞳のまま、それでも噛みしめる如くしっかりと歌い上げる〈悲しみ越えて羽ばたこう、今 愛した日々のすべてをかけ 彼を自由に〉彼を自由にしてそれだけじゃなく〈羽ばたこう、今〉って能動的な強い意志を見せてくれるところが良い。本当に。ただどちらかが損をするだけで終わるんじゃなくて、幸せになるために踏み出そう、とそれぞれが動き出す話だから、この作品はハッピーエンドになるのだと思う。
  • 歌い終わりまもなくして、駆け込んでくるロビー。ヴェルクロに話しかけながら急いで荷造りをし、マリリンが声をかけてようやく彼女の存在に気づく。ヴェルクロ「ロビー、この人はね」ってちょっと意気込んで話し出すというか、語気がちょっと強めなところに、誤解やすれ違いがないよう二人を仲介しようという気持ちが伺える。
  • 「俺が、望んでいたのは」「望んでいたのは?」「分からないけど!……彼(ジェイムズ)がもっと、もっと違っていれば」ロビーの言葉は、さっきマリリンとヴェルクロが話していた「彼を変えられるって思った?」と少し通じる部分がある。マリリンはそれに「そうね。もっと厄介な付属品がついてない人ならよかったのにね」って皮肉を言うけどロビーはそれに頷かないし、マリリンも自分を卑下するようなニュアンスが多分でロビーに嫌味で攻撃するような感じは文面ほどなくて。だから“何”が違っていたら、っていうのは明文化されないままなんだけど。想像するなら、『彼がもっと優しくなければ』ってことなのかなぁ、とか。ジェイムズは優しい。愛に溢れている。愛にまっすぐだ。それ故に、マリリンとロビー、どちらかはっきりと選ぶことができない。その優しさってズルくねぇ?って話なんだけど、マリリンもロビーもそんなジェイムズを愛してしまっているから。もしかしたら、マリリンはジェイムズが誰かと電話をしているその背中や声色に、ロビーはテレビで見るジェイムズのフィアンセへの視線やしぐさに、あぁ愛しているのだな、と痛感してしまうことがあったんじゃないだろうか。自分が愛されているからこそ分かる。だからジェイムズにどちらか選べなんて言えない(自分が選ばれない可能性のほうが高いと二人とも思っていそう)。ジェイムズがもっと優しくなければ、とっくにどちらか選んでくれたのに。もっと優しくなければこんなに愛することもなかったのに。って。想像ですが。
  • マリリンの皮肉に「わたしも言ったんだよ!彼は危険がいっぱいだって!」と割って入るヴェルクロ。フォローの意図かな。*12尚も静かに話し続けるロビー。「俺、知らなかったんだ。あなたのこと、最初は。彼が俺を好きになってくれて、俺は舞い上がって、それで……」知らなかったらいいんか!?って話ではあるんだけど、めちゃくちゃ素直に、まっすぐにロビーが話すから、そうだよね……ってつい思ってしまう。ここに狡さなき説得力を持たせたはやしくんほんとすごいなあって思いながら毎回聞いていた。
  • 「誰と恋に落ちるかなんて、自分じゃどうにもできないだろ?」ド真理。フィアンセがいる人を好きになってしまったロビー。恋してると気づく前に恋に落ちてしまったマリリン。ゲイに一目ぼれしてしまったヴェルクロ。もっともっと根本的に、自分と相手がどんな立場でも、男でも女でも、その人を好きになることに抗えることなんて、ひとつもないんだよなぁ。
  • 「……そうね。わたし、あなたを責めるつもりはないのよ。こうなること、どこかでずっと分かってた気がする。多分、知らず知らずのうちに、準備してたのね」あぁ「分かってる」がまたきてしまった……マリリン……。「誰かを傷つけるつもりはなかったんだ。だから……行くよ」ここでさえロビーは、悲しみを自分の中だけで処理しようとして、“自分が”消えるべきなんだって、対象はほかの誰かじゃないんだよね。
  • おばが暮らし、遺灰を撒くようお母さんに言われていたマーゲイトへ行くとロビー。それを聞いたヴェルクロが「まだわたしがいるじゃない、バカね!」って怒るの、自分がロビーにとっての拠り所であることを彼女自身が理解しているからこそで、どんなことになろうがロビーを支える気概にも溢れていて、すごい言葉だなぁと。ロビーは「クロ!昨日あんなことがあったんだ!」マスコミが自分を悪者にする、自分がいると周りを巻き込んでしまうから、と離れる意志を頑なにする。ヴェルクロの「じゃあ……わたしは?」の問いにロビーは「何か方法を考える」と返す、それは決してヴェルクロを見捨てるわけじゃないロビーの優しさだけど、でも、ヴェルクロが本当に言いたいのはロビーの思ってることではないんだろうな……。
  • ロビーの去り際。ヴェルクロに「必ず電話ちょうだいね」と念を押されるロビーに「これが必要でしょ?」とスマホを渡すマリリン。ガラスの靴がマリリンからロビーへと。
  • スーツから着替えて、雑に羽織ったロビーのくたびれたジャケットを直してあげるヴェルクロ。(これに限らず、ラストでロビーを送り出すまで、自分を妹と称しながらもヴェルクロは、随所で母親のように見えることがある。母性を押し付けるのはよくないな……と思いつつ、ヴェルクロは登場人物で唯一自分の子供がいる母親なんだよねーとも。)ロビーが告げる「ありがとう、クロ。愛してるよ、とっても」ロビーがどんなにつらい境遇にあっても、こんなにもまっすぐ自分をごまかさずにいられたのは、ありのままのロビーを受け入れてくれるヴェルクロがそばにいたからこそ。ロビーもそんなヴェルクロの愛をしっかりと身に感じていたんだろうな。まっすぐな愛情、ひそやかな恋を孕んだヴェルクロのそれとピッタリ同じものとは言えないのは、彼女を想うと複雑だけど、どちらも真心には違いない。
  • ロビーが去ったあと。マリリン「想像していた人とはまるで違った」どんな人を想像していたのかな、と思うけど、自分のフィアンセを寝取ったいわば浮気相手、邪悪な想像はいくらでもできてしまうよな。歳は若いのか、男か女か……。でもロビーは恋敵である自分に妬み嫉みをぶつけることはなく、ジェイムズは俺のものだとも奪うとも言わず、己が消えることが最良として身を引こうとする。「これってちょっと気まずくない?」と思わず言ってしまうほどの関係にもかかわらず、純真な思いをまっすぐに伝えてくる。「顔を見て話せてよかった、ほんとに。こんなときじゃなければ、もっとよかったけど」とまで。その姿が、ヴェルクロが言っていた「彼は自分をごまかせないから」を想起させるし、それが醜態ではなくこんなにもピュアなら、そりゃ責める気にもなれないよな、と……。もしかしたらマリリンはそんなロビーに、「学生時代はジェイムズが男の子に目がいってしまうこと、秘密でも何でもなかったのよ」のころ、若くて今よりもっと素直でいられた愛しき親友の姿を見た、なんてこともあるのかもしれない。
  • ヴェルクロの漏らした言葉をきっかけに、ロビーがアルツハイマーを患ったまま亡くなった母の遺書がないと義父側に主張され、相続権を奪い取られそうになっていることを知るマリリン。弁護士として名刺を差し出し、力になれることを教える。知り合ったばかりの、しかも当事者は恋敵(だった)にも関わらず。清く正しい義を持った人で本当に素晴らしい。
  • 気落ちするヴェルクロを察してマリリン「あなたは大丈夫?」「……たぶん。時間が経てば!」明るく振る舞うヴェルクロが切ないけど、つらいこともこうやってポジティブに努めることで乗り切ってきたんだろうなぁ。そんなヴェルクロをマリリンはもう分かってるから、「そうね。でもきっとあなたは大丈夫」と過剰に慰めず言ってあげられる。
  • 「ありがとう」「何に?」「親切にしてくれて」「何もしてないよ」「たくさんしてくれたわ」この会話、無償の愛はここにあるよって感じですごくあったかくなる。いいことをしてあげよう、じゃなくて、ただ人として向き合っただけのことなんだろうなヴェルクロにとっては。
  • 「さようなら、ソニア」マリリンが去り、ひとりになったヴェルクロ。Wishing For The Normal。〈どうかどうか 小さな愛に包まれたありふれた暮らしがただただほしい〉ロビーが離れていってしまった彼女の心の嘆きであり、なにもかも捨てざるを得なくなってしまったロビーや、愛する人との別れを決意したマリリン、そしてこれからの自分へ、幸せを祈ることばでもあるのかな……。

 

【S5 ジェイムズ・プリンスの選挙事務所②】

〈♪M13b Remember Us - Reprise〉

  • 転換のBGMがM12のinstで、これからウィリアムがなんかするんだろうなーって連想させる。
  • 翌日の朝刊の見出しをチェックするジェイムズたち。内容はすべて、ジェイムズがゲイのレントボーイと浮気をしたこと。新聞社渾身の見出しを意気揚々と読み上げるウィリアム。
  • サーシャ「ああそうだね!」の返事、ウィリアムはまったく意に介さずだけど語気を荒らげながら言っていて、描かれていない間にウィリアムが情報操作したんだな……ってことがサーシャのその態度で伺える。ウィリアムが新聞の名前を挙げるたびサーシャが紙を入れ替える、いつもThe SunとThe Mirrorがテレコしてたのが地味に気になってた……いやなんの支障もないけど。笑 わざとかな?
  • 「きみのボーイフレンドが知ってることをなにもかもぶちまけたってことだろ」いけしゃあしゃあとうそぶくウィリアムに、そんなはずないとも言えないジェイムズ。「僕は知らなかったと言っただろ。彼は、僕には話さなかったんだ」「じゃあ、きみはどうなんだ?隠してたよな?フェアじゃないよなぁ?」ウィリアムぐう正論だし、そのあと「選挙資金の大半が消えたんだぞ!きみは怪しげな逢引で、墓穴を掘ったんだ!」も正論。身を粉にして集めた選挙資金が一夜でパーになったら怒って当然だし反旗を翻したくもなる。(腹の中はそんなに忠実でもなかったわけだがw)
  • 「こう言うのも何だが……掘るのが好きだな」お尻を振るバージョンと新聞を丸めるバージョンとがあったけど、前者派かな……。
  • 「ベリンガム卿は、別の候補者に乗り換えるようなことを言っていたな」「誰に」「それが……俺に考えてみる気はないか、とかなんとか」同意を求められたサーシャ、(もちろん嘘話なので)もはや真顔。
  • ジェイムズに追い打ちをかけるように、「きみが書いたスピーチ原稿を読んだよ。あれはダメだ」自分が書いた原稿を押し付けてウィリアムは満足げに退場。「きみは!社会に尽くす精神など、微塵も持っていないじゃないか!」とブチギレも届かずやりきれないジェイムズ。使えないと判断したジェイムズを切り捨てるウィリアムの行動には「分かりやすい男だな、いつもながら」と言えるけれど、自分自身が出馬する手段を取ろうとは思ってもみなかったんだろうなぁ。
  • ひとりになって、ロビーに電話をするジェイムズ。「ロビー、僕だ。どこにいる?」「消え去るところだよ」「教えてくれ。なぜだ。なぜ新聞記者に話したんだ?」ロビーのこと全然思いやれてねぇな!!ただの保身!なんだけど、「教えてくれ。なぜだ」のニュアンスが怒りじゃなくて懇願であることが、裏切り者!って思ってるんじゃなくて、ただ理由を聞かせてよ……って感じで、まだ好きなんだなぁ(嫌いになる瞬間は一度もないのですが)ってことを伝えてきてつらい。好きなのに信じてあげられない。ここ、ジェイムズひどい!ってなるより、そうならざるを得ないジェイムズの立場や心情になによりもつらくなってしまう。
  • 「なんだって!?……その質問がすべてだな。さよなら、ジェイムズ」失意のロビー。ジェイムズに怒りをぶつけてもいい状況なのに、ここでさえ感情のベクトルは、こうなってしまった自分の運命に向けられていて。(もちろんジェイムズの言動がきっかけなので100%その限りではないけど。)電話を切って肩を落とし去っていく姿には、疑いを向けたジェイムズをどうにかしようって意志は一切見られないんだよな……。ガラスの靴も王子様も魔女も現れない。やっぱりひとり消え去るしかないんだ。的な落胆。そしてFinaleのソロにつながっていく。
  • ウィリアムと入れ替わりで現れるマリリン。「あいつに、もうおしまいだって言われたよ」「選挙?それともわたしたち?」「選挙のことだけど。僕たちについて話そう」ジェイムズに背を向け、婚約指輪を外すマリリン。「ひとつだけ聞きたいことがあるの、ジェイムズ。……何が変わったの?」
  • ジェイムズ「何も。できると思ったんだ、僕ならやれるって」Remember Us。〈白か黒に決められない 選挙と違う〉〈愛がすべて 愛があればきっとうまくできると 僕は……〉結果としてうまくいってないし、愛があればなんて、その考えは破綻してる。そしてだんだん体面を保てなくなってることに彼自身が気づき始めている。どちらか選べないジェイムズは、ずるいのかもしれない。それでも、ロビーのこともマリリンのこともそれぞれ真摯に愛していて、ジャッジすることができなかったのが、歌の中から痛切に伝わる。愛にまっすぐであることはロビーとても似ていて、でもそれゆえに二つの愛に悩むことになってしまって。そして有名人で政治家で、という立場を手に入れたジェイムズは、“まっすぐ”だけで生きていくのが難しくなってしまった人なんだと思う。いや、心はあくまでもまっすぐだけど。市民にも、フィアンセにも、恋人にも、出会ってしまったすべての愛を大切にしたくて、多少のゆがみに心を軋ませてでも「僕ならできる」って思いを強くしていたかったのかな。
  • それに対してマリリンは「二人でそう思ったのよ。二人ともそれを信じたかった」マリリンがどうして「何が変わったの?」って聞いたのかな、と考えるんだけど、わたしは確実な答えにはたどり着けなくて。でもマリリンはジェイムズの「何も」って答えを聞いて、別れを告げる決意を固くすることができたんじゃないかな、と。マリリンへの愛が薄れロビーへの想いを濃くしたわけではない、婚約のきっかけが打算だろうが都合だろうが、真心をもってマリリンを愛してくれたジェイムズはただ、“ありのまま”の彼がロビーと出会って恋をしてしまっただけの、心変わりをしたわけではないということ。結果として、二人への愛をひとつひとつ抱え、二人からひとつひとつの愛を受け取ってしまうジェイムズは、「いつも自分より他人のこと」どちらかを選ぶ=捨てることができずに。何も変わっていないジェイムズ、それゆえに「僕ならできる」なんて意気込んで雁字搦めになってしまった――そしてそれは、マリリンもそうであって(自分と向き合ったままでいて)ほしくて、そうなるようにジェイムズを導いてしまっていた――そんな彼を自らの手で自由にしてあげなければ、とマリリンは思ったのかもしれない。
  • 〈プロポーズしてくれたあの日*13〉楽しそうに昔話をしだす二人。〈若かった 愛しい日々 でも……〉切ない空気になって、「あなたはついに目を覚ます」自分の婚約指輪をジェイムズに握らせるマリリン。「目を覚ます」って言葉、切ないけれどすごく好き。おとぎ話を信じ込んでしまったマリリンが、同じおとぎ話の中に迷い込んだジェイムズに目覚めを告げる。それはマリリンにとっての目覚めでもある。婚約指輪はマリリンにとってのガラスの靴だったかもしれないけれど、彼女はそれを王子様に返す。一方ジェイムズがシンデレラの世界でマリリンは魔女になって、ジェイムズがこれから幸せをつかむために必要な「目を覚ます」という名の魔法をかける。
  • そんなマリリンの手をそっと押し戻し、〈愛してる〉震える声で告げるジェイムズ。S4のロビー→ヴェルクロ「愛してるよ、とっても」と重なる構図。お互いに、けれどぴったり同じとは言えないそれ。ここでもマリリンはジェイムズに「それは分かってる」と言う。めちゃくちゃ分かってしまっているマリリン……。
  • 「でもあなたは愛せないのよ、わたしを完全には」それはロビーのことがあるからで。「マリリン頼むよ!人生のパートナーでいてほしいんだ!」は、『都合のいいゴールデンカップル』としてのパートナーじゃなくて、心から、愛する人としてずっとそばにいてほしい、という想いに他ならなくて。ジェイムズにとってマリリンはかけがえにない唯一無二だから。でも。
  • 「わたしはあなたのすべてがほしいのに?」今までジェイムズの前では努めて凛々しく物分かりのよかったマリリンが、もっとも感情をむき出しに、泣きながら言うのが。その後ジェイムズに「誠実になるのよ。何よりもあなた自身に対して」と言葉をかけるんだけど、マリリンの想いも、今まで目をつむってきたジェイムズとのこと、そして何より自分自身に対して誠実になったからこそ、「わたしはあなたのすべてがほしいのに?」って伝えることができたんじゃないかなぁ。きっとそんなこと、まして泣きながらだなんて、言ったことなかったんだろうなと思う。言えなかっただろうな、とも。
  • マリリンの想いにすぐにYesと言えないジェイムズ。(ACT1の時点で何か言わなきゃという素振りを見せるくらいなので、もう心がどこにあるのかある程度自覚しているとは思うんだけど。)「僕はどうすれば」迷う彼にマリリンは「『常に誠実に真実を語りたい』あの言葉を思い出して」と言い残し、そっと手を触れて、立ち去る。ハッとするジェイムズ。ビッグ・ベンの鐘が鳴る。この鐘、どのシーンでも同じ音を使ってるので、リアルな時間軸の鐘の鳴り方ではないらしい(それがダメって意味では決してないですあしからず)のだけど、わたしは12時の鐘*14だと思っている。ジェイムズの魔法が解けた瞬間。ハッとして、体が揺れた衝撃で涙が一粒キラリと空間に瞬いて落ちるのを何度か見たのですが、計算でも偶然でも充さん泣き方天才では……?

 

【S6 ストリップクラブ グラム・アムール】

〈♪M14 15Minutes〉

  • ウィリアムの差し金でレントボーイの姉・ダナクロのもとへマスコミが押し寄せる。フラッシュを浴びてご満悦の二人。
  • ダナクロに恨みありwな語りのサーシャ。はしゃぐダナクロを見て「なんか腹立つ!」とイライラしてるの、回を重ねるごとに感情がどんどん膨らんで、最終的には「調子に乗るなよ……調子に乗るなよ!」って怒鳴っていた。w
  • 〈誰かが言ってたわ 誰でも一度 15分だけ有名になれると〉ウィリアムに言わせれば「貧民窟」、階級社会の低層で暮らし、男運もなく、心に飢えや貧しさを抱えてきた彼女たちにとって、注目というキラキラした世界は、その心が羨む憧れの象徴。M1でジェイムズカップルにキャーキャーして〈有名人が大好き 写真撮らせて〉って歌うのをアンサンブルじゃなくてダナクロたち本人にしたのがここでめちゃくちゃ活きてる。
  • 来る15分とその先の未来に期待を膨らませる二人。いっぱいいろいろ言うんだけど〈自伝も書いちゃうよ 暴露本だよ〉が個人的に一番好きです。笑〈ブランドも作ろう〉で二人が腕を絡ませた形はシャネルのマークで、M8の〈マスカラはシャネル〉とリンクした振付なのが良い。
  • ダナクロが歌う中、周りには男性陣が徐々に登場しコーラス。実際にグラム・アムールに来るんじゃなくてそれぞれがそれぞれの場所にいる感じ。各々がキーアイテムを持っていて、ロビー→スマホ、ジェイムズ→婚約指輪、ウィリアム→腕時計(装着)、サーシャ→ネクタイ(装着・握りしめてる)、ベリンガム→スマホ
  • 女性陣も登場し、間奏にてオールキャストでペアダンス。ダナ×クローダ、ロビー×ヴェルクロ、ジェイムズ×マリリン、ウィリアム×サーシャ、ベリンガム×サイドサドル。ここから、メインはダナクロの歌なんだけど、周りではそれぞれのドラマが展開されていく。この歌、アンサンブルありの本国上演ではダナクロと記者たちのパフォーマンスでやってるところが多くてそれがコミカルなんだけど、日本版では全員本役による儚い時間の群像劇にしたこと、本当にすごいと思う。
  • 楽しそうに踊るダナクロに比べ、周りのペアたちは複雑な面持ち。それぞれの別れを経た二組。ウィリアムはとても自信ありげに、対峙するサーシャはずっとネクタイを握りしめたまま。(ベリンガムとサイドサドルは作中で直接の関わり合いがないからドラマを読み取るのは難しかったです。すまん。賢也さんとマルシアさんはかっこいい。ベリンガムがサイドサドルと向き合うことで、恋人には裏切られ使役していた相手にはゆすられた彼にも、サイドサドルの魔法がかかって、その先に希望が見いだせるような未来が訪れればいいな……と思う。)
  • クラップから頭上で手を開く振付と、天に手を伸ばす振付。いろんな表現の人がいる中で、とくにヴェルクロは五指をいっぱいに広げて、背伸びをして、思いっきり手を伸ばすのがとっても印象的で。何かを、つよく、求めていて。それが何かっていうのは、このあとの彼女の行動を見ていると分かるような気がする。ケータイを見つめて、サイドサドルと出会って、すべて分かったように*15包み込んでくれるサイドサドルにヴェルクロはぎゅーっと抱きついて。ロビーに電話をかける、でも少しの会話でロビーに切られてしまって、彼女は決意して、そしてマリリンに電話をかける。このまま祈るだけじゃダメだって、ヴェルクロは(ロビーの、そしてそれは自らにつながっていく)幸せを求めて。自分から手を伸ばして事を起こした。言葉でうまく説明できないんだけど。各々が舞台上から去って、メインのダナクロ以外はマリリンとヴェルクロだけが残ってて、〈ついに15分が来た〉のタイミングでマリリンとヴェルクロが端末を耳に当てて見つめ合い、ヴェルクロがパッと笑顔になる……って流れが、クローズアップ効果というか、ハッピーエンドへの道が拓けた……って感じでとても好きなのです。
  • その他、ずっとぼんやり指輪を見つめていたけれど、何かに気づいて立ち上がるジェイムズ。ウィリアムは時計をしきりに気にしている。セットの壇上にいて、そこはウィリアムが屈辱に耐えながら対応していた電話の主・ベリンガムのいつもの立ち位置で、一方のベリンガムはスマホを手にフロアにいる。ここの立ち位置の逆転めっちゃ見事だなと。そしてサーシャは高いところにいるウィリアムのことをじっと見上げている。ヴェルクロの電話に少しの会話しかせず、力なく立ち去るロビー。サイドサドルは、そんな彼らに次々と魔法をかけていく。
  • 〈夢の扉を開く時が今 ついに目の前に来た〉と高らかに歌い踊っていたダナクロだけど、〈ついに15分が来た〉でさっきまでの勢いはどこへ、儚げで切なくて、まぶしい光にすべて飲み込まれてしまったような声と表情で。ダナクロに魔法をかけて去るサイドサドル。周りには誰もいなくなり(登場人物はみんなそれぞれの場所にいたテイだけど、舞台上からいなくなることで視覚的にさっぱり寂しくなって、記者たちも店から去っていたんだってことが分かる)残った二人きり。〈そして15分は終わった〉
  • ・クローダ「さ、Tバックを洗わなきゃ」洗濯機にTバックを放って、ため息をつきながらフフッて笑う二人。諦めたような呆れたような、15分だけ注目を浴びたけど主たる話題は弟ロビーのことで、用が済めば去っていくのみだし、まぁうちらは違うよねー、みたいな、あっという間に魔法が解けて日常に戻っていく虚しさがある。でもその微笑みはガッカリ感でいっぱいなんじゃなくて、むしろ穏やかで柔らかく、どこか清々しくもあり。途切れた夢、というよりむしろその先の光みたいなものが窺える。キラキラまぶしくはない、世界一汚い街で、貧しくていつもどおりの生活が待っているとしても、彼女たちの心を満たすものは、そんな日常の中にあるのかもしれない。と思えるような。洗濯機に放り込んだTバックはACT1で「チャーンス!」と掲げたのと同じもので、それを洗うのは『クリーンにする』っていうこの物語のテーマのひとつを表しているなぁと。でもって洗うってことはまたそれ履くんだもんね、暮らしの中で。
  • とはいえダナクロにはこれからも、したたかにはっちゃけて生きていってほしいものです。

 

【S7 謝罪会見】

  •  ざわめく会場。明日には報道されるスキャンダルを謝罪し、市長選立候補の断念を表明するための会見。登壇するジェイムズ。
  • ジェイムズが読み出したのはウィリアムが用意した原稿。いかにもな謝罪文。だけど「わたしの裏切りは……裏切り?」「……笑える。僕は、この撤退宣言を、自分で書いてさえいない」ここからジェイムズは、原稿を読まずに自分の言葉で語り始める。
  • ジェイムズ、押し付けられたスピーチ原稿と返された婚約指輪、そしてマリリンの言葉を抱えて、『自分に誠実になる』とはどういうことなのか、一生懸命考えたんだろうなぁ。その結果、ジェイムズの場合は、その方法のひとつとして“正直な姿”を有権者たちに晒すことを選んだ。Honesty=誠実、そして正直。「結局、有権者が与えられるのはイメージです。人物じゃない。僕じゃない。メディアが作り出した、ただのイメージ!」「政治家を志したとき、僕は思いました。誠実でいよう。(中略)それが伝わると思ってた。……うぶだった。無邪気すぎた」と言うジェイムズは、どんなに誠実を掲げようが、『市長候補のジェイムズ・プリンス』が印象操作の上で成り立っていることに気づいていたし、ゆえに得られる生きやすさとぬぐえない生きづらさの間でもがいていて、スピーチ原稿=イメージを投げ捨てるのは、そこからの解放を意味しているのかな。「水泳選手だったころは単純でした。僕と水だけ」「その単純さが好きだった」「僕は水が恋しい」わたしが有権者として聞いてたら、その話何?って思ってしまうかもしれない、謝罪会見には必要のない文言。だけどジェイムズにとって、自分に誠実でいるためには、とても重要で正直な告白。
  • 「明日の新聞はこぞって、僕がある男と浮気したと書き立てるでしょう。実際それは、彼らが主張するようなものではない!でも、それでも!……許されないのでしょう?」ジェイムズにとってロビーは真心で想い合う恋人、マリリンは唯一無二の感情を分かち合えるパートナー。真実がそうであっても、メディアが報道すればそれは「浮気」だし、相手は「男」だし、自分の愛の形が世間に認められないことをジェイムズはずっと分かってたんだろう。「でも、それでも!……許されないのでしょう?」と強調する言葉が切実さを物語る。ジェイムズ、水泳選手としてポスターが出るほどの知名度で、そこから政治家を志して、それは彼が選んだ道だけど、有名人であるがゆえにずっと“特別”であることを求められて。でもその“特別”は彼の純粋なパーソナルではなく、誰もが憧れ受け入れるテンプレートをはみ出してはいけなくて、本当は弱々しい部分もあったり、男が好きだったり、そういうのは全く求められないどころか許されないことに、心の奥で苦しんできたんだろうなぁ。
  • 正直な自分の姿は、ただ苦しかったことだけではなく、愛と感謝を語るのもとてもジェイムズらしい。マリリンへ、「きみがいなければ、僕は……」と裏でも伝えてきたことをこの場で改めて言葉にする。「僕が愛したロンドンは、世界一偉大な都市になれると思う。それにふさわしい市長が選ばれることを、心から、願っています」ロンドンをよくしたい、という想いで向き合ってきた市民の皆様と愛する場所へ。けれどそれだけじゃないジェイムズ、「僕が愛した、ロ……」と言いかけたのは、確実にロビーのことを口走りそうになって、言うべきではないと思い止まる(名前出したら格好の的になっちゃうもんね)けど、言い換えたロンドンへのメッセージは、ロビーへの想いと重ねることができるんじゃないかなと。『僕が愛したロビーは、世界一素敵な人だ。きみにふさわしい男が現れることを、心から願ってる』的なね。ロビーに愛想を尽かされたと思い込んでるし、でもまだ自分は好きだから。
  • ジェイムズが登壇している間、スタッフとして下で聞いているウィリアムとサーシャ。ジェイムズが投げ捨てた原稿を急いで拾い集め*16、サーシャに渡そうとするも、サーシャはジェイムズに釘づけで自分はガン無視なのでしぶしぶ持ったままのウィリアム。不憫だね……。
  • サーシャは目を見開いて、食い入るようにジェイムズを見つめている。自分をさらけ出して話すジェイムズの姿はとても衝撃的で、そして、今のサーシャにとても必要な、感銘を受けるものなんだろうなぁ。
  • 「この場を去る前に、これだけは言いたい。感謝を伝えたいのです」ジェイムズの言葉にそわそわしだすウィリアム。サーシャに無理やり原稿を預け、壇上への階段に足をかける。礼を言われるのは自分だという確信を胸に。……いやそんなわけがなかろう!?さっき「きみは社会に尽くす精神など微塵も持っていない」と人格否定され、用意した原稿は投げ捨てられたのに、よく感謝してくれると思えるな……というのと、こいつならそうするだろってジェイムズのことすごくチョロいやつだと思ってんだろなウィリアム……。お前がチョロいよ……!もちろん己への言葉などなく、居た堪れなくなりその場を去るウィリアム。プライド傷つけられちゃったね……。
  • 会見は終了、戻ってきたウィリアムはおかんむり。
  • 「今のが僕だよ、ウィリアム。きみに認められるとも、気に入ってもらえるとも思っていない。ただ、あれが僕だ」「僕は今、生まれて初めて自分は勝ったと思っている」ジェイムズの口調は穏やかで、何か憑き物が落ちたような。それを微笑みながら見守っているマリリンが愛しい。
  • ウィリアムの怒りも嫌味も、自分を取り戻したジェイムズには暖簾に腕押しで、「哀れなのはどっちだ。人形をなくした人形遣いのほうじゃないのか」とまで言われてしまう始末。「きみは負け犬だ。ずっとそうだった」と言うウィリアム。したたかで忠実な「犬」になると不敵に言っていたウィリアムは、ジェイムズのこと、犬は犬でも「負け犬」だと思ってたんだなぁと、「犬」はウィリアムのキーワードだった。
  • 立ち去ったウィリアムが大声で「スクラップ」を呼ぶ中、サーシャはそれに引き寄せられることなく、ジェイムズに握手を求める。それが、ビッグ・イシューを受け渡す写真を撮られたときとは、立ち位置は一緒なんだけど、まるで違くて、誰かに指示されたのではなく自分の意志でジェイムズに手を差し出し力強く握り返したサーシャは、エネルギーが静かに、でもメラメラと燃えていて、この人ももうお尻をつままれて動くような「人形」ではないのだと実感できる。そして走り去っていく、もう迷いはないんだね、とその背中が教えてくれる。

 

【S8 フィナーレ】

〈♪M15 Finale〉

  • 二人きり残されて、それまでジェイムズを見守っていただけのマリリンが声をかける。「これまでで最高のスピーチだったわ!」
  • 「ねぇマリリン、」「分かってる。でもわたしたちは、変わらない」それまでは「あなたは変わらないし、わたしはあなたを変えられない」ってジェイムズが主体だったマリリンの言葉(「わたしは」は「変えられない」って不可能をうたうから)が、「わたしたちは変わらない」って自分もその中にいるのが、うまくいえないけどすごく好きで。あなたを変えることはできないけど、あなたも今のわたしを変えることはできないのよって。もし変わることが必要ならば、できるのは自分の力、それだけで。そして変わらない「わたしたち」は一日前までの関係じゃなくて、もっと昔から深く結んでいた、親友という絆のこと、だと思った。変わっても、変わらないもの。何に対する「分かってる」なのかはっきり言わないけど、そのあとのジェイムズの「じゃあ、どうしろって言うんだ?」を考えると、ジェイムズのマリリンに対する愛が変わらないこと、なのかなー。
  • マリリンのLet Him Go。〈過去に心を閉ざすより 未来に目を向けて 踏み出す時は怖いけど ただ光目指して〉自分に言い聞かせるように泣きながら歌ったそれを、今度は上を向いて晴々とした顔で力強く歌い、ジェイムズに聞かせるマリリン。完璧に自分の言葉になったのだなぁ。
  • 新聞の報道はウィリアムの差し金であってロビーは何も話してないこと、ロビーはすべてをかばってマスコミから逃げていることをマリリンから聞かされるジェイムズ。めちゃくちゃ驚いてるけどちょっと考えたら思いつきそうなものを!wでも当時はそれどころじゃなかったし、ロビーも何も言ってくれなかったもんね。
  • うろたえるジェイムズに「ロンドンブリッジ駅から出る列車に乗るはずよ?」とマリリン。きっとヴェルクロに聞いたんだよね。ここ、マリリン最大の「分かってる*17」ポイントで、これを伝えることによってジェイムズがロビーを追いかけることを分かってて、そうするように導いてるんだよな~!ジェイムズの心からの望みを分かっていて、そしてジェイムズをそこへ行かせることが今のマリリンの望みでもある。
  • それと同時に、ジェイムズをロビーのもとへ送り出すってことは、ロビーのジェイムズへの想いをマリリンが認めたことの表れでもあるんだよね。あの子にも幸せになってほしい、って、対話を経て思ったからこその。まっすぐな想いが人の心を動かして、人は誰かの優しさで生きているのだと思える瞬間。
  • もちろん、ロビーを追いかけるために走り去るジェイムズ。ジェイムズの体をぽんぽんって優しく叩いて、見えなくなる背中に万遍の笑みで「頑張ってね、ジェイムズ!」とマリリン。そして転換になるのだけど、セットを押してはけていくマリリンが、彼女のラストシーンとしてとっても好きで。マリリンが押すセットはジェイムズが演説をした台(として使った洗濯機セット)で、ジェイムズが意を決して自分に誠実になったその場所を、これから自分の幸せのために踏み出すマリリンが、笑顔で、自分の手で、強く押していくのが、彼女が自分の力で進んでいく晴れやかなスタートを表しているようで、実際に演説台を片付けことはないだろうし、スタッフが動かしてもいいものを*18、あえてマリリンが押してはけることによって大きな意味を成すことが素晴らしいと思う。幸せになってね、マリリン!
  • マリリンとジェイムズがやり取りしている途中で、下手端の椅子にサーシャが腰掛ける。二人を見ている彼は“語り”の立ち位置なんだけど、すごくスッキリしたような笑顔を浮かべているのは間違いなく“サーシャ”で、2回目以降に見ると、サーシャ、告発、したんだな……!ていうのが分かる。一足先に一歩踏み出したサーシャが、その晴れやかな顔でジェイムズの旅立ちとマリリンの新しい始まりを見守ってるのがいいなぁ。
  • ロンドンブリッジ駅。駅員役の語り(サーシャ)。キャラメルの箱とフィルム*19でノイズ交じりのアナウンス。某俳優を連想する技巧と日本の鉄道あるあるの文言で笑いを取ってたのにちょっと戸惑ったんだけど、本国の上演映像見てるとドラァグクイーンみたいな人がやってたりカオスなのでこれでいいのかもしれない。
  • ロビーのWishing For The Normal。〈普通になりたいだけ なぜ手が届かない? 欲張りなの? 高望み? 何がダメなの?〉お母さんを両手に包み、ぽつりと独り言……というか、お母さんに話しかけてるのかな。ただ普通になりたかっただけなのになぁ、何がダメだったのかな?って薄く笑って自嘲気味にこぼすのがいじらしくて切ない。
  • 列車に乗るべく立ち去ろうとするロビー。そこへ「ロビー!」ボストンバッグを肩に担ぎ現れたのはジェイムズ。
  • ジェイムズのGypsies Of Ether。〈おかしいよね?こんな場所で ようやく愛を見つけるなんて〉ほ、ほんとにな……!!(ハッ本音がw)〈こんな場所で〉たくさん遠回りをしたけれど、ようやく見つけた〈愛〉は、自分の本当の望みであり、何よりもロビー、たったひとりのこと。
  • って自分本位だなおうおうロビー一回怒っていいぞマジで!ってところなんだけどw、ロビーは「これってマジ?本当にこれがきみの望み?」ってそれはそれは嬉しそうに、泣きそうに震えた声で返してしまうから……!!ロビーにとって謝罪なんかどうでもよくて、彼が望んでいたのは愛する人とずっと一緒にいたい、そして愛する人はジェイムズ、たったひとり、だから、ジェイムズが旅立ちの装いで自分を追いかけてきて〈ようやく愛を見つけるなんて〉自分を見つけて選んでくれるのなら、それだけでいいんだよね。今までのむなしさ遣る瀬無さをすべて幸せで埋めて、どころか溢れかえるほど満たしてしまう。このセリフ、舞台奥のジェイムズに向き合って言うので客席は完全に背中でロビーの顔は見えないの、見えなくても声だけで、めっちゃくちゃ高まってるのが伝わってくる!んだけど、それだけに顔~~~!見たかったな~~~~!!でもでもこれこそ、ジェイムズしか見られないロビーの顔、なので、その演出が本当にニクい。キスよりもニクい。笑
  • ジェイムズ〈二人はまるでストレンジャー 見知らぬ恋人だ〉抱き合ってキス。フードの中で。ジェイムズのフードを引っ張ってかぶせるのがジェイムズ自身じゃなくてロビーACT1とは逆。取り様、いろいろありそうだな。ジェイムズはさっき聴衆の前で自分をさらけ出してしまったのでもう割と何も怖くなくてそのままいこうとするのかもしれないけど、ロンドンブリッジ駅、まだロンドンだし、かぶせてあげるのはロビーの優しさなのかもしれない。ここは夜の公園じゃなくて昼間の駅で、明るくて人通りもあって、そんな中でロビーが、みんなの注目の的で他の誰かのものでもあったジェイムズを、フードの空間でたったひとり独占しているようにも思えて。人目を避けて暗くても隠れなきゃいけない公演でのキスとニュアンスが違ってくる感じなのが良い。こうでもしなきゃ……感がなくなっていく。
  • ↑でキスしながらジェイムズがロビーの腰をつよく引き寄せた回があって、それが本当に超スーパー最高でした。熱っぽかったなぁ。ありがとう充さん。
  • 「……でも、俺のために何もかも諦めるなんて」ジェイムズが自分だけを選べなかった理由、マリリンにも選挙にもどれだけ真剣だったか、そして自分を選んでしまえば今までの地位や生活がなくなってしまうことをちゃんと分かっているロビーさん。「違うよ。自分のためさ。僕は、普通でいたいんだ」この言葉こそ、ジェイムズが何よりも自分自身に誠実になった結果で。誰かに求められ続けた“特別”ではない“普通”、それは〈表の顔の裏の本当の姿〉それを見せられる、〈自由になれる〉〈ありのままの自分でいられる〉のは、たったひとりロビーの前だけ。ロビーと生きたい。「いつも自分より他人のこと」と言われていたジェイムズが、「自分のためさ」とはっきり言える。しがらみのない本心でロビーを求めている。弱くていい。完璧じゃなくていい。ロビーがいい。自分自身に誠実になったジェイムズの姿は、彼自身だけでなくロビーのことも幸せにしてくれる。
  • Wishing For The Normal。ジェイムズとロビーで掛け合い。手を合わせてぎゅっと恋人繋ぎして。〈手をつないで〉〈映画見て〉〈たまにワリカンで〉〈食事して〉ジェイムズ〈欲張りかな? 高望み?〉ちょっと冗談めかしく、おだやかに、手を差し伸べて問うジェイムズ。ううん、て言う勢い*20で首を横に振ってロビー「そうは思わない!」ピーターパンにウェンディがやるやつみたいに飛びついてハグ!駅中で……目立つで……でももういいやんなんでも……幸せやん……。愛も過ちも全部、受け入れて抱きしめてくれるぬくもりがあれば、それだけでいい。『好きはすべてを飛び越える』愛が、空じゃなくて、遠くじゃなくて、もっとも近い0距離で抱き合った瞬間!「そうは思わない」、ありのまま望んでいいものなんだってロビーがジェイムズを肯定してあげられること、そしてジェイムズのそのフレーズはロビーも口にしていた言葉。だからそれは巡り巡って、自分自身のことも肯定して、二人が二人を肯定したってことなんだよね……。「きみはそれでいい」ロビーがずっと言ってもらいたかった言葉、もうほぼお互いに言ってあげ合えたようなものじゃないか……!
  • 「ロビー!待って!」サイドサドルのリキシャに乗って現れたヴぇる来る。リキシャ、電飾でピカピカのキラキラ。笑 ロビーとハイタッチして「ロビー」、その派手さと突然の登場に驚いているジェイムズに笑いながら「ジェイムズ」、それぞれ名前を呼びながら魔法をかけ、去っていくサイドサドル。
  • ヴェルクロ「マリリンと話したの!」M14の伏線回収~!洗濯屋での一件を知らないジェイムズは「マリリン!?」と何が何やら。笑 マリリンの手助けで、ないと言われていたロビー母の遺言書を見つけ出したヴェルクロ。ロビーが幸せに進めるよう尽力してくれるヴェルクロ、本当にいい親友だなぁ。「アンタは単独の、たったひとりの相続人だったの!全部アンタのものだったんだよ!」こういう大逆転、ハッピーエンドにはつきもので、テンプレっちゃあテンプレだけどそこがいいなぁ。
  • お母さんが大切にしていたもの、そして自分の居場所を手放さなくてもよくなったロビー。「ありがとう母さん、俺を救ってくれた」お母さんを抱きしめて感謝と喜びを噛みしめる。その後ろでヴェルクロとジェイムズが話してるんだけどジェイムズずっと困惑しててかわいい。対マリリン同様まったく物怖じせず(たぶん、聞こえてないけど)タメ口で話してるであろうヴェルクロ。
  • そしてジェイムズにもサプライズが。「信じられない」「ホントなんだってば!」マリリンのことだと思ってプリプリしてるヴェルクロかわいい。「あぁいや、あれのことさ、見てごらん」
  • 「それは駅のスクリーンのニュース速報。『ウィリアム・ジョージ、助手のサーシャ・ラーキンにパワハラを告発され立候補を断念』」サーシャが語りとしてセリフで説明するんだけど、サーシャが踏み出した瞬間のことを自分の言葉で説明できることが、語りを他の誰でもないサーシャにしたことの大きな意味だと思った。本当によかったな~!散々ウィリアムに引っ張られ、ときに苦しそうに握りしめていたネクタイを、するりと外してガッツポーズ。抑圧から解放され自由を手に入れたサーシャの清々しい勇姿。速報を見たジェイムズも「よくやったぞ!サーシャ!」と嬉しそう。
  • 出発の時間。遺灰をどこに撒くか彼に言った?と問われ、「マーゲイト海浜公園だよ。母さん*21が好きだった場所だから。何か問題?」とロビー。そこでヴェルクロが、「べつに?ただジェットコースター*22のてっぺんから撒くのはやめた方がいいと思うよ!」って返すのが、まぁ~粋で……ニヤニヤしながら、べつにぃ?って。ヴェルクロの“忠告”を受けて、それだぁっ!って顔を輝かせるジェイムズとロビー。
  • ジェイムズとロビーのWishing For The Normal。〈どうかどうか 小さな愛に包まれたありふれた暮らしがただただほしい〉これさー本国のライブ版もミュージカル版もジェイムズ・ロビー・ヴェルクロの3人なのにさー、日本版はカップルで歌わせたの意図的だよね?すっごいニクい~~~!!!笑 だいすき!!このフレーズ、今まで登場したどれにおいても、手が届かないものとしての憧れ、だったけど、今回はまるで違うんだよね。手に入れられる!ふたりなら!って未来に希望が満ち溢れている。ふたりなら!っていうのがロビーとジェイムズにとってのミソで。じゃあそこで歌わないヴェルクロは完全蚊帳の外なのかって言われればそうでもなくて、二人の間に介入はしないけど、これから幸せに向かうこの二人のことを朗らかに微笑んで見守ってるんだよね。そう、ヴェルクロはずっと、人の幸せをちゃんと喜べる人だから。だから、この2:1の構図がめちゃくちゃ好き。曲のこのフレーズも、ロビー&ヴェルクロの男女デュエット→ヴェルクロ女声ソロ→ロビー&ジェイムズ男声デュエットって一つのお芝居で響きが変わっていくのが、耳にも楽しくて、それぞれのニュアンスを意識しすぎず受け取れる感じがして最高だなぁ。すてきな采配。
  • 肩を抱いて連れて行こうとするジェイムズに少し待ってもらって、いつもの手合わせ*23でお別れするロビーとヴェルクロ。M1のときみたいに元気に、そしてハグはぎゅっと熱く。思い切り背伸びするヴェルクロがかわいい。S4の切ない別れに終わらなくてよかった!
  • そしてとうとう立ち去るジェイムズとロビーにヴェルクロは手を振って、舞台上からはけてもずっと、ベンチに乗って、限界まで、見えなくなるまで。千切れるくらい。笑顔で。ロビーが行ってしまう寂しい気持ちももちろんあるだろうけれど、それよりもロビーがずっと望んでいた、愛する男を手に入れて、お母さんとの思い出も奪われずに済んで、さぁここから!絶対幸せになるんだよ!!ってヴェルクロのエールが、溢れんばかりに伝わってくる。そんな姿を見たら絶対、もう絶対にヴェルクロにも幸せになってほしくてたまらなくなる。
  • そんなヴェルクロにはハプニングが。手を振る最中、通りすがった男性とぶつかってしまう。「あぁ、ごめんなさい!いいえ、こっちこそ!」ふたりまったく同じ言葉をピッタリとハモって。男性の手には一匹の金魚が入った袋。ハンチング*24を被った長髪の男、演ずるは賢也さん、おじさんともお兄さんとも言えるような、風貌はなんとも……胡散臭い。笑「変なこと聞くけど、きみ、金魚に詳しい?遊園地でゲットしたんだ、ほら、ジャムの瓶にピンポン玉を入れるゲームで!」そして話すと少年のように無邪気!ますますなんなん!?って感じだけど不思議な人懐っこさ。「ジャムの瓶にピンポン玉を入れるゲーム」はヴェルクロはM2で語っていた思い出と憧れ。興奮を共有しめちゃくちゃ盛り上がる二人。しかしふっと我に返ったヴェルクロ、「あぁ、いえ、わたしは……」と遠慮してしまう。
  • 男性が去り、ひとり残ったところで、ヴェルクロのWishing For The Normal。〈そして金魚を飼いたい〉ちょっと待って。今の人。金魚。ピンポン玉にジャムの瓶を入れるゲーム。わたしの夢……ってヴェルクロの顔がぱぁって明るくなって、「待って~!!」と元気よく手を伸ばし、男性を走って追いかけていく。きっと彼はロビーが言ってた「いつか運命の人が現れるから」の運命の人!鮮やかに伏線を回収していくのたまらねぇ~!って思うし、ヴェルクロが男性に見初められて……とかじゃなくて、自分から追いかけていくのが特に良い。伸ばし続けた手で、自分の力で幸せをつかみにいく、最後まで能動的なヴェルクロが本当に好きだ。ヴェルクロはリキシャに乗って駅に現れた、それはロビーを救って送り出すためだったけど、でもそれだけじゃなくって。幸せのスタート地点にやってきた、ヴェルクロにとってもあのリキシャはかぼちゃの馬車で、シンデレラはここから自分の足で踏み出して、未来をつかんでいくんだよね。ヴェルクロ~!幸せになってくれ~!!!
  • エピローグ。ロビーとジェイムズ、マーゲイトにて。ジェットコースター……かは分からないけれど(立ってるだけでそれ以上の描写はないので)高いところにいるのはヴェルクロの“忠告”に乗っかった形なのかな。ロビーの手にはお母さんが。
  • 入れ物のふたを開けて。放つ前にロビーに合図して、中へ向けて投げキッスをするジェイムズ。ロビーもパッと笑顔を咲かせて、ジェイムズに続き投げキッス。ここがもう好きすぎてうまく言えないんだけど、幸せそうな二人を見て、今でも*25思い出しては泣きそうになる。自分にとって天使だった母親に敬愛を注いでくれる恋人を見るロビーのなんと満ち足りた表情よ。すごく嬉しそうで、投げキッスを思いつくジェイムズはお茶目で……ロビー、ジェイムズのこういうところを好きになったんだろうなぁ。
  • そしてお母さんを空に放つ。その軌道のみならず。舞台全体に灰=銀の紙吹雪が降り注ぐ。キラキラまばゆさを増す景色は視覚的にも驚きと感動があるし、まるですべて(街だったり、人だったり、劇場空間だったり、すべて)に幸せの魔法がかかったような、そんな高揚感を得られる。
  • そしてキス。フードはもうかぶらなくていい。隠れず、堂々と幸せをかみしめる二人。ロビーとジェイムズ、とっても幸せそうなんだけど、実際はまだ二人マスコミから逃げてきただけ。ジェイムズの汚名は返上されず、地位を追われ(捨てたんだけど)、ロビーはたとえ相続権を持っていてもきっとしばらくは帰れない。手を取り合っただけ、ここから先二人が幸せになれる保証はどこにもない。……ないんだけど。やっと本当の意味で手を取り合うことができた、お互いが「普通」でいられる存在を手に入れた、それだけで、あとのごちゃごちゃはどうでもいい!なれるかなれないかじゃない、ただ、幸せになってくれ……!と祈らざるを得ない思いになる。障壁を乗り越え、魔女たちに背中を押され、シンデレラたちはこれから、自分たちのその手で、「普通」というかけがえのない幸せをつかんでいくのでしょう。ジェイムズ、ロビー!幸せになってね!
  • エピローグ②。サーシャ、ロンドンにて。晴れて自由の身となったサーシャ、街中でタップを踏もうとする。この光景がOPを想起させる。サーシャってすごくクローズな人だったけど、他の登場人物が声を上げて放出していたパッションを本当は内側に抱えていて、それを人間関係の上では上手に表現できなかっただけなのかもしれなくて、彼の場合その表現方法はタップダンスだったのかな、と思えてくる。見始めはまさしくオープニングアクトとして楽しんでいたそれが、この舞台を最後まで見ると捉え方が変わってきて、もしかしたらあれって最初からサーシャという一人の登場人物の“叫び”を聞いていたのかもしれないな、なんて。言葉ではない、でも、内側からあふれ出るエネルギー、ノンバーバルな“叫び”は、SOHO=狩りの時の雄たけび、声を上げる、という作品のテーマを最初から観客に提示していたのだな、と気づかされるようで。
  • 循環構造、のようで少し違うのは、タップを踏もうとしたサーシャがリキシャとぶつかるところ。(ほぼサイドサドルがつっこんでる事故。笑)そして、スッ……と指し示されるリキシャの後部席。恐る恐る乗車するサーシャ。サイドサドルが「サーシャ……」と彼の名前を呼ぶ。どうしてサイドサドルがサーシャの名前を知っているのか、分からないけど、そんなところが彼女の存在の不思議さを際立たせている。サーシャは語りとして物語を俯瞰で見る立ち位置だったけど、サイドサドルはさらに俯瞰で物語の何もかもを見ている人物なんだろうな*26。面と向かっては「スクラップ」とばかり呼ばれていたサーシャが、はじめて名前を呼ばれて、きっと彼の運命が拓く。「サーシャ……GO!」サイドサドルがリキシャを力強く漕ぐ。「GO~~!!」サーシャは大きな声で叫び、かぼちゃの馬車に乗って新しい明日へと走り出す。終わり。
  • サーシャで始まりサーシャで終わる物語。『サーシャを介して物語に引き込まれる』ことを思ったときに、最後にサーシャが馬車に乗ることが、なんだか観客のわたし(たち)の元にも馬車が来たんじゃないか……と思えて、すごく好きなのです。

 

【カーテンコール】

〈♪M16 Bows〉

(すみません、終演から時間が経ってしまい記憶が混濁してて、カテコ1とカテコ2の順番があいまいです(ロビーとジェイムズの登場の仕方とか。)なのでぐちゃぐちゃに書いてると思いますがご容赦ください……)

  • ロビーさん登場時、ベリンガムがロビー!って両手を広げてWelcomeするのを、ロビーがめっちゃ軽快に突き飛ばして拒否するのが毎度笑えて。ロビーさん無邪気に残酷そうゆうとこだぞ!笑
  • ジェイムズは最後に登場、パーティーの装いで、ネイビーのプラダのジャケットを手に。普段着のジャケットを脱いで、それに袖を通すロビー。腕を組んで(ジェイムズがリード側)歩む二人。笑顔で迎え入れる一同。もうさ……結婚式なんだよな……。
  • キャスト全員揃ったところでYou Shall Go To The Ball。サイドサドル〈ためらってないで行きな 特製の馬車が待つわ〉サイドサドルを先頭にみんなで舞台をぐるっと走り回る。その間ずっとキラキラの灰が降っていて、みんな笑顔で灰を被っているのが、この物語の誰もが灰かぶりのシンデレラで、誰もが幸せの魔法をかけられているんだって、【SOHO CINDERS】タイトルがシンデレラじゃなくてシンダーズ、複数形であることの意味噛みしめる。最後列を走るヴェルクロとロビーが、客席に向かってこっちこっち!おいで!って煽ってくれるのが観客としてはほんっとーに幸せで。“誰もが”っていうのは舞台と客席を隔てない、幕開きからここはひとつの世界で、ここにいるすべての、“誰もが”シンデレラなんだよ!と言われているようで。一緒に魔法をあびて走って参加しているような気持ちになれるカーテンコールでした。
  • ロビーがドレス=スーツに身を包んだことでベンチに置かれていた普段着のジャケットを、キャストがはける時にヴェルクロが攫って、肩にかけて、笑顔で持って帰ってくれるのが、本当に最後の最後まで好き。他の誰でもないヴェルクロが持って帰ってくれることに意味があって……ここからはただの妄想だけど、ヴェルクロはきっとこれを持ち帰って洗濯してくれるんだと思う*27。きれいにして、ロビーに届いて、ロビーは日常の中でまたこれを着る。なんかそんな気がします。

 

すべて見終わった後の得も言われぬ多幸感。生きてる以上みんな幸せになる権利があって、そのためにもがいて声を上げてよくって、一歩踏み出した人に拓ける幸せがあって。あなたはあなたの人生を生きていい、あなたにとっての大切なものを愛していい、あなたの声を響かせていい、幸せになっていい。それは素晴らしいことなんだよ!って、生きづらい世の中で、生きることをポジティブに肯定してもらっているような気分になりました。それがとても嬉しくて、終わった後に思わず涙してしまう作品。出会えたことが嬉しいなぁ。ありがとう。

気持ちが強すぎてパッションしかない。自分でも引くほど長々と書いてしまいました。最後まで読んでくれた人はありがとうございます。途中で脱落した人もありがとう……ほんとごめんな……。きっともうしない。w書きながら、観劇のときもきっと無意識に感じてはいたんだろうけど意識して気づけてないことに、言語化することで気づけたり、舞台を思い出して何度も泣きながら書いたり、もうずっとずっと楽しかったです。でも書いてるうちにこの感情は正しいのかな?とかいろいろと考えるきっかけも芽生えたりして、そういう話をいつか……違う記事でまとめられたらとか……思いながら……(まだ書くのか……)

再演を心待ちにしながら。ありがとうございました。ほんとうにお疲れさまでした!……ほんとうに!wこんどこそ終わり!

 

*1:でも、すべて理想。まだ叶わないことを歌っているから、実際の交際費はジェイムズ持ちなんだろうな。交際と関係ない部分、施しは絶対もらわない。これはロビーの恋人に対するポリシー。

*2:ベリンガムとの関係

*3:書いてる途中で考えすぎだし隔てすぎだと思ってしまったのですが、一応考えたことなので脚注で残します。ガラスの靴=プリンセスの象徴に対して、男性のロビーが“俺”に合うサイズは、て歌ってるのが切なく思えてしまうんです。ジェイムズにはフィアンセがいて、さっきの会話で(勢いで)言ってみても丸無視されてしまって。彼が王子様でガラスの靴は存在するとしても“俺”がはけるサイズはない、ていう意味でもあるのかなと……。

*4:厳密には「そう見られてもおかしくない」ってニュアンスですが。

*5:ライブ版にはサーシャのパートはなくて、上演の映像見たらありました。ミュージカル版で書き足されたのかな?

*6:どうしてマリリンがこの場所を知ってるの?と思わなくもないが細かいことは考えたらダメ。

*7:上演映像を見るとそれについて何か言ってるような気がするんだけど英語力が追いつかず聞き取れません。残念。誰か分かりましたら教えてくださいw

*8:物語上はどうしてもあまり見られないところなので(いつもって言う割には二つの関係を無茶するじゃないかー!)へーそうなん……ってわたしはつい思ってしまうw

*9:マリリンは38歳。ジェイムズは36歳(パンフレットより)だそうですが、マリリン姉さん女房なんですね。大学は同級生だとつい思ってしまうのだけど、先輩後輩だったのか、マリリンの入学のタイミングの問題なのか。

*10:ところでロビーの年齢っていくつくらいなんでしょうね?なんとなくジェイムズと10歳差、25~26くらいだと勝手に思ってます。ロビーと自分を「兄(姉)と妹」と称したヴェルクロは同い年かそれより少し下なのかもな?そうなるとお姉さまズのダナクロは30くらいかなー。ACT1の感想でダナクロまだ若いよ!って書きまくってるしそれに違いはないけど、たしかに年齢を気にしてしまう頃なのかもなぁ。

*11:諸々そんなことないんだけど、あくまでこの物語では。

*12:本国上演だとマリリンの発言はもっと怒ったニュアンスで言ってるのが多くて、ヴェルクロのフォローにロビーが、大丈夫だから、みたいなことを言ってる(と思う)(英語聞き取れない)日本版マリリンはすごく落ち着いてて、この時点でかなり自分の感情を受け止めている感じがします。

*13:日本版は言及ないので完全に蛇足なのですが。英詞ではプロポーズのくだりで〈New Year's Eve〉って歌ってて、聞き間違いでなければジェイムズ→マリリンのプロポーズは大晦日に決行されてたんですよね。これを勝手に(あ勝手に!)日本版と混ぜて〈でもそのあとで Yesと〉と歌ってるので、これは2回目のプロポーズのこと。マリリンの年齢を考えるとそんなに結婚を先延ばしにもしないだろうし。2007年末に2回目のプロポーズ→(2008年8月ごろにマッチングサイトでロビーとベリンガム卿が出会う)→2008年10-11月ごろにロビーとジェイムズが出会って恋人になる→2009年3月ごろ←イマココ、って感じかな、と勝手に(勝手に!)思ってます。3月ごろっていうのは単純に日本の公演期間をあてただけ。ロンドン市長選のと投票日が5月頭だそうなので「ごくありふれた春の日」は立候補の〆切日がありそうな3月末~4月ごろかなと。(リサーチ力が弱くロンドン市長選の正しい立候補時期が分からなかった……有識者様いましたらご教授くださいませ。)ロビーがジェイムズにフィアンセがいることを知らなかったのは、出会った当時はまだそこまで選挙活動が活発ではなく婚約も騒がれていなかった、とか、ロビーがジェイムズと親しくなるまで政治にあまり興味がなかった、とかの理由かな?ジェイムズを好きになって注目してみるようになって、少しずつPR活動が市民の目に留まるほどの頻度になって、初めて知ったのかなぁ。時系列完璧に合わせようとするといろんな矛盾が生じるので(主にマリリンとジェイムズの関係とか年齢とか)ただの妄想のアテだと思ってくださいね。

*14:S1のキレが0時。S3の翌朝が8時くらいだとして、S4の頭が9時か10時くらいかなと。S5のその先、S6が12時からの15分間、S7が12時半か13時、5分ほどのスピーチが終わって14時までの間にサーシャがウィリアムを告発(ちょうど記者がいっぱいいるw)、ジェイムズは14時18分発の列車に間に合いますかね?w

*15:ヴェルクロのロビーに抱く想いをなにもかも知ってるんだろうな

*16:全然関係ないから隠すけどウィリアムが「続けろジェイムズ、続けるんだ!」って言うと、「続けろ続けろって、何を続けたらいいんだよ……!」って返したくなるし、高いところにいるジェイムズがライバルに見えてくる。ジャニオタだから。

*17:とは言わないがw

*18:この舞台はここに限らず演者がセットを動かすのが殆どではありますが、スタッフもやってるので

*19:タバコだとサーシャのイメージに合わないからキャラメルになったのだとか

*20:言わないんですけど。でもこの首振りが好きすぎて、勝手にセリフを起こしたときにはっきりと「ううん、」って書いてしまった。言わないけど言ってるんです。

*21:初日から何公演かは「おふくろ」って言ってて、他では呼ばないのになぜここでだけ……って気になってたから、割と早い段階で修正してくれてよかったなと思いました

*22:有名な遊園地があるとのこと

*23:うしろで見様見真似するジェイムズ、ちょっとダサくてかわいいぞ

*24:キャスケットだっけ……どっちか……(急に不安)

*25:千穐楽から2ヶ月経過

*26:ロビーたち<サーシャ≦観客<サイドサドルって感じがする。

*27:ロビーがマーゲイトにいる間お店はヴェルクロが守ってくれるんじゃないかなぁとか。いやこれは話せば長くなる妄想です。笑