雑記の表紙はグリーン

ジャニオタ備忘録(語るタイプ)

But it wouldn't be make believe...〈SHOW BOY〉

ふぉ~ゆ~主演【SHOW BOY】大千穐楽おめでとうございます。光も影もすべてひっくるめて人生はエンターテイメントだ最高!っていうパワーを感じさせてくれる素敵な作品でした。

劇中の『ペーパームーン』がとても好きで、Twitterにつぶやいていたら長くなったので以下にまとめます。本編を総括する感想ではないです。(それもできたらどこかでまとめたいけど。)まとめただけなので前置きもオチも中途半端ですが。

 

(いつもながらの感想というより(拡大)解釈です)
(セリフはニュアンスです)

 

 

 

 

SHOW BOY第2話『ペーパームーン』。

 

男はギャンブラー。カジノで全財産を使い果たして途方に暮れている。カジノに突如現れた少女は、同伴者がいないことを理由に入場を断られている。「賭けさせてくれたっていいじゃない」少女が抱えているカバンの中には大量のチップが。それを知ったギャンブラーは少女の兄を名乗り出す。「わたし、一人っ子だけど。兄のようなおじさんならいる」少女の言葉に合わせ、ギャンブラーは少女のおじさんとして同伴者となり、二人は難を逃れた。そしてギャンブラーは少女にカジノの案内役を申し出る。お目当てはもちろんカバンのチップだが、賢い少女は逆にギャンブラーを翻弄して……。

というのが大まかな導入。

 

ギャンブラーは「ギャンブラー」という役名で、少女にもプロのギャンブラーを自称するが、本当はギャンブラーではない。それは少女にもすぐ見抜けるほど 素質のない男で、実のところは起業のため祖父の山を勝手に売り払ったために家を勘当され、事業はすぐに失敗、出口の見えない借金返済の日々を送る、ただの冴えないだけの人。

少女は同伴者がいない理由に両親が死んだことを挙げるが、実際、父親は生きている。少女は、このSHOW BOAT内キャバレーでショーを行うマジシャン、Mr.マジックの娘なのだ。

嘘をつき合って、にせものの親戚となった、初対面の二人。

 

ギャンブラーがカジノで少女をかばったのはたしかにチップ目当てだが、初動の動機は「パパもママも死んだの」という少女の(嘘の)告白にあったのだと思う。その後、少女に真実を聞かされ(「パパも今日、わたしのなかで死んだの」)、ギャンブラーは家族の大切さを少女に説く。ギャンブラーがカジノで一山当てたい真の目的は、借金を返して勘当を解いてもらうこと、家族として妹の結婚式に参列することだった。縁を切られたのは自業自得だけど後悔している、できればもう一度やり直したいと。

少女が心の中で父親を殺したきっかけは、数十分前のこと。少女のお気に入りのマジシャン、まだ見習いで、十年経っても結果を出せない父の弟子。舞台に立たせるための試験の出来は毎年散々なもので、とうとう本日、Mr.マジックは心苦しくも見習いにクビを言い渡した。少女は、見習いを切り捨てる父の決断に反発したのだった。

 

少女がギャンブラーに問う。
「子どもから、大人に質問。ねぇ、人生って変えられるの?それとも、変えられないの?

 

大量のチップを抱える少女はワケアリに思えるが、実はそのカバンは拾っただけのものである。(人のものを盗むのはいただけないが、最終的にはコメディとして解決するのと、この話の筋とは関係ないので置いておく。)少女がなぜカジノに来たのか?という理由の芯の部分は、作中では明示されない。考えるならば、何かが劇的に変わるところを体感したかったのかな、と思った。少女が解決したい見習いの件において、彼女はかなり無力だ。プロである以上妥協できないラインを持つ父を説得するのは難しく(それでもMr.マジックは見習いにかなりの温情をかけていた)、見習いがうまくやれるようになるしか道はない。それなのに彼は、どんなに一生懸命でも、一向に上達が見られない。少女はそんな彼らの姿を見てきた。十年という歳月を思えば、そのもどかしさはいかほどか。賭け事には、自分の選択とツキが重なったとき、1が10にも100にもなるチャンスが現れる。ギャンブラーがカジノに100万円をつぎこんだのと、根底でつながるような思いが、少女にもあったのかもしれない。お金があるからといって見習いを引き止める手立てにはならないかもしれないけれど。自分の選択が、勝ちに転がるような体験を、無力だからこそ求めていたのかもしれないな、と。無意識にでも。

とはいえ、そこまで確固たる思いでカジノに来たのなら、少女はきっとギャンブラーの誘いなど受けずに自分で賭けに挑んだだろうし、ちょっと大きなことがしたかった、とか、むしゃくしゃしてるところにちょうどよくチップが……的な、もっと漠然としたものも大きかったんだろうな。とも思う。

 

人生って変えられるの?それとも、変えられないの?」少女はギャンブラーに二度同じ質問をする。一度目は、唯一手元に残る薄汚れたしわくちゃの一万円をひらりと見せて「……見りゃ分かんだろ」と投げやりに言うのみだったギャンブラー。二度目は、少女とピアノを連弾した後。「あの一万円札は、ただの紙切れじゃない。一万円以上の価値がある紙なんだ」勘当され田舎を出るとき母親が持たせてくれて、以来ずっと握りしめていたという。どうしようもないことばかりしてきて、自分がバカなことも身に染みていて、それでも彼は家族との再生を諦められない。100万円をチップに変えて、すべてなくしてしまっても、たった一万円だけは手放せない。ギャンブラーにとってこの一万円札は、唯一の絆の欠片であり、希望であり、しるべだ。

ギャンブラーは少女の問いに二度も言葉を返しながら、答えを示すことはない。変われないとも、変われるとも言えない。変える力も持ってないけれど、燻りながら、輝きながらそこにあるのは、「変えたい」という想いのみ。ずるくて弱くてクズで、質問に答えはくれない「おじさん」だけど、そんな彼に少女は寄り添っていく。それは、現状を変えられない虚しさと、それでも変えることを諦めきれない想いに、シンパシーを感じたからではないだろうか。

 

そして二人は楽しそうに歌い出す。『It's Only a Paper Moon』を。

 

ペーパームーン』というタイトルを見た時点でピンとくる人も多いと思うが、この章は映画『ペーパームーン』をオマージュしている。映画は、詐欺師の男が、死んだ恋人の娘を家まで送り届けるロードムービー。『It's Only a Paper Moon』は劇中歌に用いられている。恥ずかしながら浅学で、映画も楽曲もSHOW BOYを通じて初めて知った。映画を見るには至らず、あらすじに目を通した程度なので、それについては深く触れないことにするが(有識者の方頼みます!)SHOW BOY版の楽曲がとても好きで、そちらは英語詞の曲も聞いた。

 

SHOW BOY版は、

まるでペーパームーン いつだってペーパームーン
ほんものの月には程遠い

選んだ道 進んできた道
そのすべてが間違いで すべて幻

選んだ道 進んできた道
なにもかもを はじめから やり直せたら

というように(抜粋)、現状の遣る瀬無さを歌っている。言葉だけだと暗い印象を受けるが、明るいメロディとファンタジックな演出が、涙にくれる絶望感ではなく、~だったらいいのになぁ、といったような、ちょっとした希望みたいなものを想起させてくれる。英語詞のサビはこちら。

Say It's only a paper moon,
Sailing over a cardboard sea,
But it wouldn't be make believe,
If you believed in me.


Yes, It's only a canvas sky,
hanging over a muslin tree,
But it wouldn't be make believe,
If you believed in me.

紙でできた月だけど、布に描かれた空だけど、あなたがわたしを信じてくれれば、にせものとは思えなくなる。そんなメッセージの愛の歌で、SHOW BOY版は英語詞に忠実な訳というわけではない。 

 

曲中、二人は作り物の月に腰掛けて、少女が言う。「おじさんが、ほんとうにわたしのおじさんだったらいいのに」ギャンブラーは少女の頭を撫でて、二人笑い合う。嘘つき同士、にせもののコンビは、いつしか「ほんとう」を想うようにまで、心を通わせていたのだ。

〈ほんものの月には程遠い〉二人はそう歌うけれど、言葉のその先には、〈But it wouldn't be make believe, If you believed in me.〉があるんじゃないだろうか。信じることができれば、想い合えば、にせものとは思えない。にせものかもしれないけれど、ほんもの以上に価値のあるものになる。紙の月も、二人の絆も。二人が腰掛ける月は、実際に船内にあるものではないと思う。ギャンブラーがピアノを弾きながら歌い少女のそれに乗って踊り始めるこの曲は、ピアノを離れ踊って月に座って……曲の終わりはまたピアノに戻って、弾いて結ぶ。ギャンブラーも少女も元の位置に、ずっといたかのように。おそらくあれは、二人の心象風景。舞台が魅せるつくりものの演出、けれど、通わせ合った心は「ほんとう」だと思える。演劇的で、ショーとしてもとてもキレイ。すてきなシーン。

 

少女はギャンブラーに、ほしがっていたチップをあげることにする。(ここで、いらねぇよ……☆ってならず素直に嬉しがるのが彼の彼たる部分である。)「見習いをステージに立たせる」ことを交換条件にして。この人になら想いを預けられる信頼と、もしかしたらなにかしでかしてくれるんじゃないかという、少女の大博打だ。カバンを追いかけてきた警察に捕らわれた少女はギャンブラーにカバンを預け、叫ぶ。「人生は変えられるって、わたしに教えて!」少女の言葉を胸に走り出すギャンブラー。第2話はここで終了。

 

そしてギャンブラーは、「人生は変えられる」を証明する。

あの後、奇跡的にバックステージに転がり込んだギャンブラーは、見習いとMr.マジックに出会い、頼み込むことで、最後の試験として見習いがステージに立つ許可を得た。(Mr.マジックはギャンブラーに「どうせ娘に頼まれたんだろ?」と言う。少女もまた自ら行動することで見習いを救った、まったく無力ではなかったのだ。)そして高まったギャンブラー、なぜか「よし、こうなったら俺も何かやるぞ!」と意気込み、勝手に衣装を借りて、勝手にショーに出演してしまう。他にもいろんなことが起こりまくって、ショーはカオスを極めるものの、大成功を収める。

ショービジネスにまるで無縁のおじさんが、なぜかカンパニーの一員としてショーをやり遂げる。コメディに則したカオスではあるが、この人この瞬間の人生を変えてしまったじゃないか、と気づいたときには、おかしさと同じだけの感動を覚えた。一杯目の注文もコインの裏表も、女か男かも、何度も迷って決められない。それで騙されたりツキを逃す、優柔不断なギャンブラー。けれど、ステージに立つと決めたのは、ノリと勢い、驚くほどの即断だった。「こういうのはパパッと決めた方がいい」エンジェルの言葉が蘇る。これこそが、ギャンブラーが自分の選択によってツキを掴んだ瞬間だ、そう思った、

ちなみにギャンブラーはカバンのチップを手にすることはできない。本来はおとり捜査のために警察が用意したものだったので、少女となかよくごめんなさーい☆して返してしまった。家族に会えるだけの金を稼げるのか、この先うまくいくのかまでは描かれてもいない。けれど、少しはいい方向に転がってくれるんじゃないか。ギャンブラーがショーに飛び込む様は、そんなポジティブな気持ちをもたらしてくれた。

 

ペーパームーン』。おじさんと少女という設定や曲のオマージュだけでなく、これは単なる言葉遊びの妄想にすぎないかもしれないが、「月(ムーン)」と「ツキ(運)」、「紙(ペーパー)」と「紙幣(一万円札)」というふうに、物語のキーワードやモチーフがタイトルと連想できるのが面白い。とくに一万円は、「幼少の思い出の500円」とか、硬貨でも成立させることはできたかもしれないけれど、紙幣だからこそよかったような気がしている。チップのコインは使ってしまうけれど、たった1枚のお札だけは手放せない。彼にとっては一万円以上に価値のある紙だから。チップに変える際のレートや、他人が使うときの値段相当では計れない。油も汗も染み込んで、自販機でジュースも買えないかもしれない汚い紙だけど。カジノでは賭けにも使えないただの紙と化すけれど。それでもギャンブラーにとっては、ほんとうのそれ以上に価値のあるものになっている。『It's Only a Paper Moon』は一万円札のことも歌っているんじゃないかと、わたしには聞こえる。

手放せない、といつつ、賭けに負けたギャンブラーは少女にその一万円札をとられてしまう。でもそれが、見習いの最後の試験で一番大掛かりなマジックのタネになって、ステージを成功させた見習いは正式にマジシャンとして認められることになる。一万円札が、一万円以上の価値ある未来につながった。マジックのために赤いインクででかでかと文字を書かれてしまう一万円札。お会計で出すには恥ずかしくなったそれを、ギャンブラーはきっと一生大事にするのだろう。家族との絆、だけでなく、少女と、一夜のショーに携わった人たちとの絆が染み込んだ、何よりも価値のあるものとして。

 

 

 

 

ここまでTwitter。そんな感じです。

 

人生って変えられるの?それとも、変えられないの?

ギャンブラーがはっきりと答えられなかった少女の問いは、SHOW BOYの作品がはっきりと言葉をもってアンサーをくれる。

人生は変わる いつだって変えられるさ
だからそう信じて 一緒に歩いてゆこう

変わりたいという想いがあれば。信じて歩き続けていれば。快活なメロディと歌声で告げられるそれはガツンと胸を打ったし、月の上で肩を並べる少女とおじさんのことを思わずにはいられない。そして、最高のアンサーを笑顔で歌う越岡裕貴さんは最高だと、オタクは噛みしめた。きれいごと、かもしれない、けれどそれを歌うあなたを信じれば、もう嘘やまやかしの言葉とは思えない。そう心から感じられる。

 

余談だけど。事業を失敗して一攫千金を狙うほど、仕事もうまくいってなさそうなおじさん、ショーに飛び込んだことで、『There's No Business, Like Show Business』ショウより素敵な商売はない!なんて思っただろうか。彼のその後が知りたいなぁ。おわり。